帰ってきた

ときどき小雨ふる。
小谷野敦『帰ってきたもてない男―女性嫌悪を超えて』(ちくま新書)読了。
小谷野氏の本は、いつもながら、たくさんの話題を提供してくれます。そういう意味で、私がいちばん面白く読んだのは第八章「『女性嫌悪』を超えて」、次いで第四章「結婚の愉楽と憂鬱」、二章「スポーツマン至上主義の時代」あたりです。また、「出会い系サイト」潜入をこころみた第六章「写真つき出会い系の残酷市場原理」もそれなりに面白いし、「結婚紹介センター」に潜入する話(「春日茫々―あとがきにかえて」)もなかなか面白い。
この本には、「『もてない男』批判への反駁と弁明」(第三章)もあるのですが、前著『もてない男*1の続篇的な内容の本というよりはむしろ、著者のいうように「総括編」とでもいうべき内容の本に仕上がっていて、また著者自身が結婚(と離婚)を経てきたこともあって、「既婚のもてない男」という新たな視点も提示されています。ここでいちいちの具体的な記述を引用していると、キリがないのでやめておきますが。
さて、小谷野さんは「帰ってきたぞ!―闘うまえがき」で、「生真面目な読者のために、今回は、基本的に冗談抜きで書いてみようと思っている」と述べているのですが、第五章の末尾のように、「生真面目な読者」にとっては、どこまで本気なのかよく分らないことも書いていて、それがまた、いかにも小谷野さんらしい。
ちなみに、書名に「帰ってきた」とあるのは、近年に至って再評価されている『帰ってきたウルトラマン』に捧げる意をこめたからなのだそうで、初代ウルトラマンに比べて「パンツがすっきり短くなっ」た「帰マン」を、結婚経験後のご自身になぞらえているのが面白い。
ファミリー劇場では、現在「帰マン」が放送されていて、私は二話だけ見たことがあります。そのときに驚いたのは、藤田進が地球防衛庁長官に扮していたということ。しかし、藤田進はウルトラシリーズ俳優人名録にもちゃんと登録されていて、『ウルトラQ』から『ウルトラセブン』にも何べんか登場しています。これは後から知りました。ファンやマニアにとっては当然のことなのかも知れませんが、藤田進といえば、私は「姿三四郎」とか「富樫」とか「浦島五郎」とかいったイメージを抱いていたので、それだけに驚いたというわけです。

*1:前著『もてない男』が生れるまでの経緯や苦闘については、『評論家入門』(平凡社新書,p.152-55)に書かれています。