白昼堂々

渥美清 DVD-BOX
 野村芳太郎『白昼堂々』(1968,松竹)を観る。原作は結城昌治。脚色は野村芳太郎吉田剛。撮影は川又昂。笑わせるばかりの喜劇ではなく、高度成長期の暗部(具体的にいうと、北九州の石炭産業の没落)も描いている。それはなにも、「社会派」というほど大袈裟なものではないので、廃坑後ボタ山の残る町に住む人々の悲喜劇を「さりげなく」描くという程度のものである*1。その可笑しくも哀しい具現者が、何といってもやはり、二度にわたる炭坑の爆発で記憶を失ってしまったマーチ(田中邦衛)だ。
 原作は未読なので、映画版がその内容にどれだけ忠実なのかよく分らないが、たとえばラストで、スリから足を洗うと誓いながら大犯罪に荷担してしまう富田銀三(明らかに、富田銀次郎のパロディ。藤岡琢也)のその後と、犯人たちを捕まえる老年刑事森沢(有島一郎)のその後をカットバックで捉えるあたりは見事。このドキュメンタリータッチの、というか七十年代東映ヤクザ映画調のシーンが活かされるのは、その直前に、(喜劇でありながら)クロスカッティングを多用した緊迫感のあるシークェンス(渡辺勝次=渥美清と富田の一世一代の大犯罪)があるからなのだろう。
 また、配役の妙にも注目したい。まずは一匹狼の女スリ師腰石よし子―渡辺勝次の妻となる―を演ずる倍賞千恵子がいいし、銀三の妻役の三原葉子は、新東宝の映画に出演していた頃と比べて、すっかり落着いた雰囲気になっている。〈特別出演〉のフランキー堺(坂下辯護士)はコメディアンとしての全盛期をすでに越えてしまったとはいえ、演技が大仰にならず面白いし、有島の妻を演ずる高橋とよ(高橋豊子)の、真面目であるがゆえに可笑しい演技も楽しい。コント55号が冒頭に現れるのも貴重といえば貴重か。それに小林トシ子の婦警さんが出てくるし、渥美の親友江幡高志も出ている。

*1:実話を元にしている。