マダムと女房

 毎週読んでいる週刊誌に、某先生の写真と記事が掲載されていたので驚く。

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 息抜きに、五所平之助『マダムと女房』(1931,松竹蒲田)を観ました。これも二回目。原作・脚色はともに北村小松。〈日本の伝統〉も〈西洋モダニズム〉もどちらもいいじゃないか、という大らかで無邪気なまでの肯定がテーマ。 昭和初年の一瞬の光芒が生み出した喜劇小品。
 遅筆の劇作家・芝野新作(渡辺篤)。その女房役に田中絹代。新作は、脚本(ギャラは五百円)を書くために静かな場所を求めて郊外に引っ越してくるのですが、隣家からジャズ音楽が流れてきて仕事に集中できない。新作はそれを咎めるために隣家へ乗込んでいくのですが、マダム(伊達里子)に魅了(?)されてしまったうえに、すっかり酔っ払って帰ってくる。田中絹代は隣人のエロティックなモガに嫉妬して、和服ではなく洋服を買ってくれと懇願するのですが、最後は丸くおさまるというたわいない内容の作品です。たわいないけれども、「風俗映画」としての価値にばかり注目するのはあまりにもったいない*1
 この作品で、〈西洋モダニズム〉とともに積極的に肯定されているのが、文明、わけても〈スピード化社会〉です(だいたい、劇中で使われている音楽が、サトウ・ハチロー/高階哲夫『スピード時代』ですから当然かも知れませんが)。遅筆だった新作は急にスピードアップをはかりますし、ラストには「飛行機」が飛んでいるのを家族で見上げる象徴的なシーンがあります*2
 キャストがまた良くて、胡散臭いセールスマンの日守新一、神経質そうな音楽家の小林十九二、それからチョイ役ですが、横尾泥海男が描いた絵をトラックで踏みつけそうになる坂本武*3など、魅力的なバイプレーヤーが揃っています。伊達里子は、正直にいうとあまり好みにあわない*4のですが(身のこなしも「マダム」と言うにはほど遠い)、隣家の娘役として登場する井上雪子がたいへんキュート*5。実は、ごく最近まで井上雪子のことは知らず、先日、先輩某さんが、『カナリア』(2005)に彼女が老婆役として久しぶりで出演するのだと教えて下さったのでした(六十八年ぶりの出演だとか)。その後、井上雪子が『マダムと女房』にも出演していたことを知りましたが、一体どのシーンに出ていたのか分らなかった。今回、衛星劇場で放送されたものを見て、ようやく同定することができました。

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 夜は、BS2の「女性映画の巨匠〜成瀬巳喜男・徹底ガイド」。個人的には、川本三郎さんの解説が一番面白かった。川本氏は『おかあさん』を推薦していました。日本映画専門チャンネルで放送された成瀬作品は全て(五十九作品)録画しましたが*6大映作品のみ放送されないというのが残念。けれども今月の衛星劇場で『稲妻』(これはkanetakuさんがすすめて下さったので、出来れば今年のうちには観たいものだ)が、来月は『あにいもうと』が放送されるということで、早くも「臨戦態勢」です。

*1:例えば『東海道は日本晴』(1937)のように、女性の心情を代弁する小道具として「簪」が使われているのが面白いし、田中絹代のやや訛りのある甘ったるい声も効果的です。短いながらも見どころは沢山ある。またこの映画は、日本初の本格的なトーキー作品ということもあって、あちこちに「音」が使われた賑やかな作品になっています。オープニングの『双頭の鷲の旗のもとに』、車の音、飛行機の音、ジャズ、ミシンの音、犬の鳴き声、猫の鳴き声(鳴き真似も)、……。

*2:このシーンで、渡辺篤の台詞がほとんど聞き取れないのが残念無念!

*3:最近読んだ、斎藤寅次郎『日本の喜劇王斎藤寅次郎自伝』(清流出版)に坂本武の逸話あり(p.89)。また、渡辺篤の戦時中の逸話(p.87)には思わず笑ってしまいました(笑ってはいけない話なのですが)。

*4:髪型のせいもあると思う…。

*5:子役の市村美津子(役名はテル子)も可愛らしい。小津安二郎の『東京の宿』で、岡田嘉子と共演した少女です。

*6:そのうち観たことがあるのは三十二本。