またも清張ブーム。

松本清張けものみち』(新潮文庫)が、上下分冊版になって出ていた(活字も大きくなっている)。六十三・六十四冊めの新潮文庫である。
このところ「文春文庫」は、立て続けに短篇集や新装版『昭和史発掘』を出していたのだが、いよいよ、待ちに待った新潮文庫の「新刊」が出たわけだ。『隠花平原(上)(下)』の刊行から約十年ぶり――、ということになる。
この『隠花平原』は、私が清張を意識するようになってから文庫化された作品で、はじめてリアルタイムで買った初刷本なのである。オウム事件を予見したかのような作品、としきりに宣伝されていた覚えがあるが、なかなか面白く読んだ。
しかしこの作品が文庫化されるまでには、以下のような経緯があったらしい。

清張はこの作品が気に入らず、真鶴方面を再取材して加筆するつもりだったが、その機会が得られないまま時が経過し、ついに死後の刊行(新潮文庫96.2)となった。
郷原宏松本清張事典 決定版』角川書店,pp.18-19)

なぜ『けものみち』が分冊版になって登場したのかというと、来春からドラマ版『けものみち』(テレビ朝日系列)が始まるからだ。タイアップ企画なのである。
ドラマ版『けものみち』の主演は、『黒革の手帖』につづいて米倉涼子仲村トオルもまた出演するそうだが、久恒刑事役だという。
ところで、『けものみち』以外にも清張の本は色々と出ている。今月、光文社(創業60周年とか)は覆刻版のスタイルで『点と線』や『黒い画集』を出したし、渡部昇一『昭和史―松本清張と私』(ビジネス社)も出たばかりである。また双葉社は、『失踪』『断崖』という初文庫化作品集を刊行した。
三、四年に一度は、「清張ブーム」が訪れているような気がする。