かなしき青春

某所の古書市で、小山祐士『戲曲 自由學校』(河出市民文庫)を見かけました。私が手に入れたのとおなじ値段だのに、帯附で美本(私のは帯ナシ、しかも状態があまり良くない)。ちょっと悔しい。

久米正雄『受験生の手記』(1918.2)

久米正雄『学生時代』(角川文庫)所収。1954.8.15初版→1980.3.20改版十一版。もともと、1918(大正七)年5月、新潮社より刊行されたもの。新潮文庫や、旺文社文庫にもはいりました。
これを読もうとおもったのは、竹内洋さんの次の文章を読んだから。

立志・苦学・出世-受験生の社会史 (講談社現代新書)
『受験生の手記』は大正七年にでている。大正時代は試験地獄という言葉が生まれ、高校入試をはじめとする入学試験が社会問題になったときである。小説は、作者が二、三年下の大学生から聞いた話をもとにしている。(中略)今の若い世代が『受験生の手記』を読むと、受験に対するあまりにもきまじめな意味付与に奇異な感情さえ抱くかもしれない。(竹内洋『立志・苦学・出世』講談社現代新書,1991.p.94-95)

この中略した部分にあらすじがのべられているので、だいたいの内容は分っていたのですが、実際に手にとって読むとふかい感銘をうけました。読後感はすがすがしいものではないのですが、しかし非常に心にのこります。
受験時の描写がやたらと具体的で、合格発表のシーンもなまなましい。そのなまなましさが分るのは、たぶん、私が大学受験をしてからさほど時を経ていないせいなのでしょう。

なお解説(江口渙)には、『学生時代』という書名が決まるまでの経緯がのべられています。

この二月に『黒潮』へ書いた「受験生の手記」は百三十枚の力作だし評判もよかったので、あれを巻頭において、同じ題の「受験生の手記」という本にしようと思うがどうだろうと、(久米正雄が―引用者)私の意見を聞いた。私は反対した。
「受験生の手記なんてせまい題はよした方がいいよ。それよりも学生時代とするんだな。そのほうが内容ともぴったりするし、幅も広い。僕なら当然学生時代とつけるよ」
「そうだ。それがいい。じゃ、君の意見に従って学生時代にしよう」
こういうことでこの本の題が決まったのだ。(p.288)