これからも小津を観よう

彼岸花』(1958,松竹大船)

彼岸花 [VHS]
監督:小津安二郎、製作:山内静夫、脚本:野田高梧小津安二郎、原作:里見紝、撮影:厚田雄春、主な配役:佐分利信(平山渉)、田中絹代(證子)、有馬稲子(平山節子)、久我美子(三上文子)、佐田啓二谷口正彦)、山本富士子(佐々木幸子)、笠智衆(三上周吉)、浪花千栄子(佐々木初)、高橋貞二(近藤庄太郎)、中村伸郎(河合利彦)、桑野みゆき(平山久子)、渡辺文雄(長沼一郎)。
じつを言うと、小津映画からわざと距離をとっていました。というのは昨年、小津が生誕百年をむかえましたが、それから突然ネコもシャクシも「小津、小津」と言い始めたからです。つまり、冷めてしまったのですね。BSに出演していたS・Eというタレントまでが、「『東京物語』は…」なんて言い出したので、もういいや、と(笑)。
しかし、なんとなく『彼岸花』を再鑑賞しようという気になり、じっくり観てみました。久々に観ると、小津映画の異質さがよく分ります。その異質さに、笠智衆がもっとも馴染んでいることもよく分ります。また、小津初のカラー作品ということもあって、「赤いもの」が画面のそこかしこにさりげなく配置されているのがおもしろい。そしてもっとも注目すべきなのは、往年の大女優、田中絹代の演技だとおもいます。彼女の指の動き、目の動きに注目。ラスト間際の演技は、それだけでも一本の短篇映画がつくれそうです。小津映画の「よさ」は、私がまだ若いだけによく分らないのですが、しかし「おもしろい」。「おもしろい」から、どうしても画面から目を離すことができないのです。これからも小津を観つづけよう、と思った次第。
ところで、佐分利の会社のシークェンスは、遺作『秋刀魚の味』(1962)にいかされているように感じるのですが、果してどうなのでしょうか。