小津作品集を頂く

仲谷昇の訃報。その存在を意識するようになったのは『青い鳥』以降であったが、初めて観た出演映画は『悪魔が来りて笛を吹く』だったと思う。中平康砂の上の植物群』は大傑作だとおもうが、人によって評価は分れるだろう。ごく最近再見した『疑惑』にも出ていた。『にごりえ』が銀幕デビウ作だったとは今まで知らなかった。
悪魔が来りて笛を吹く』で思い出したが、本日付の「朝日新聞」夕刊に、最近横溝正史の生原稿・下書きなど約五千枚が見付かったという記事が載っていた。「霧の夜の出来事」(研究者にさえ存在を知られていなかった)という短篇小説も含まれていたのだそうだ。長男の横溝亮一氏が、これらの原稿を「このほど東京・神田神保町古書店「三茶書房」を通じて売りに出した」という。
夜、父の知人から、井上和男編『小津安二郎作品集(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)』(立風書房)を頂いた。有難い。井上和男氏は、新書館刊『小津安二郎全集』の編纂者でもあって、佐藤忠男小津安二郎の芸術』が再評価の決定打となったということをその別巻で述べていた(佐藤氏も小津全集を企図したことがあるというが、刊行してくれる出版社が見つからなかったそうである)。また、佐藤氏と同じ世代の人たちの多くが、小津を貶して黒澤を評価していたということも。その傾向は昭和二十年代から三十年代まで続いたという(黒澤以後は、大島渚吉田喜重を支持する人たちが増えたとよく言われはするが)。
小津映画は、小津が生誕百年を迎えた2003年に大ブームとなった(同年生れの清水宏にはあまり注目が集まらなかった。清水宏の再評価を望んでいた泉下の笠智衆はさぞ悔しかろう)。佐藤某という女性のタレントまでもがBS2に出演し、『東京物語』を絶賛する有様だった。『東京物語』『秋刀魚の味』のドラマ化*1もなされた(ドラマ版『東京物語』は吉川潮氏が扱き下ろしていた。そこまでひどいとは思わなかったけれども)。
しかし同じ「ヤスジロウ」でも、島津保次郎は未だにマイナーな存在に止まっている。来年、牛原虚彦(熊本出身)とともに生誕百十年を迎えるのだから、BS2とは言わないまでも、衛星劇場日本映画専門チャンネルあたりが特集を組んでくれることを期待したい。

*1:その後『晩春』も。