映像の魔術師メリエス

月世界旅行』(1902,仏)“LE VOYAGE DANS LA LUNE”

監督・製作:ジョルジュ・メリエス、撮影:ミショー、衣裳:ジョアンヌ・ダルシー、主な出演者:ジョルジュ・メリエス、ヴィクトル・アンドレ、ブルーエット・ベルノン
メリエス藝術の到達点をなす作品とされ、「史上初のSF」と言われることもあります。原作は、ジュール・ヴェルヌの『地球から月へ』(Le Voyage dans la Lune)ですが、科学的合理性を重視するヴェルヌの原作と、メリエスのこの作品は、主なアイデアが共通しているだけで、まったくことなっている作品だといえます。メリエスは本作品で、「重力」という観念さえはなから無視し、月人とか月人の王とか異形の者たちをたくさん登場させ、シュールレアリスティックな映像美をも追求しています。製作費約一万フラン、三箇月の撮影期間、260メートル、15分のフィルムは当時の新記録でした。
しかし、メリエスは「書割り」に固執したので、数年間の活躍の後はパッとしなくなりました。

『ゴム頭の男』(1901,仏)

監督・製作・主演:ジョルジュ・メリエス。以下の作品も同じ。
頭がゴムのように膨らむというトリックは、

カメラを固定し、その前から遠くのほうへとレールを敷いて、レールの遠いほうの端に被写体を置きます。そして、レールに載せた被写体をカメラに向けて滑らせ、徐々に近づけながら、撮影します。
中条省平『フランス映画史の誘惑』集英社新書,p.37)

という方法で撮影されたといいます。後の『月世界旅行』に、月が接近してくるシーンがあるのですが、そこでも同じ方法が採入れられているそうです。

ほかにも、以下の作品を観ました。

『幾つもの頭を持つ男』(1898,仏)

『一人オーケストラ』(1900,仏)

『常識はずれの新たな争い』(1900,仏)

J.ダルシーという映画スターをうみ出した作品です。レスリングのパロディになっています。

『音楽狂』(1903,仏)

『生きているトランプ』(1904,仏)

『飲んだくれのポスター』(1905,仏)

映像トリックはさることながら、内容的にもちょっとした「反権力」映画になっているのがおもしろい作品です。