トランジスター・グラマー

なにか新しいものが、発明されたり輸入されたりして、日常生活に流入したときに、その語が第二義を持ち始めることが往々にしてあります。たとえば、

リボン
1907(明治四十)年ころの流行語。「目立ちたがりや」の意味です。当時、外国製のショールやリボンがもてはやされていました。
蓄音機
1912(大正元)年ころの流行語。「おしゃべりな人」の形容です。
ラジオ
1926(昭和元)年ころの流行語。「無銭飲食」の意。「無線」に「無銭」をかけたわけです。

…というように。

これらと似た類のものとして、「トランジスター・グラマー」ということばがあります。
まずは、嵐山光三郎さんの『口笛の歌が聴こえる』(新風舎文庫)から。

トランジスターが流行の先端だった。トランジスターグラマーという流行語ができた。小柄なのに、グラマーな女性をさして言う言葉で、三島由紀夫が、結婚したての妻を、
「うちのはトランジスターグラマーだ」
と自慢していた。(p.85)

この言葉は、1959(昭和三十四)年の流行語だそうで、この年、児島明子ミス・ユニバース第一位(アジア人初)になりました。彼女は、日本人の体型からすると「大型グラマー」だったのですが、その反動か、日本のファッションモデル界は逆に小型化したのだそうです。それが、「トランジスター・グラマー」。その小型モデルは、3Sといって、「スモール、スイート、スマイル」の三要素を兼ね備えていたようです。
米川明彦編著『明治・大正・昭和の新語・流行語辞典』(三省堂)によると、

略して「トラグマ」と言う。(p.299)

のだそうですが、榊原昭二『昭和語 60年世相史』(朝日文庫)によると、

略してトラ・グラ。(p.143)

あれ? どちらも使われたのかしら。略しかたからすると、後者が自然*1なのですが(でも、なんだか『ドグラ・マグラ』みたいだ)、果してどうなのでしょうか。

*1:詳しくは、窪薗晴夫さんの『新語はこうして作られる』(岩波書店)などをご参照ください。