まれに見る傑作大作映画

新幹線大爆破』(1975,東映

新幹線大爆破 [DVD]
監督:佐藤純彌、脚本:小野竜之助佐藤純彌、原案:加藤阿礼、撮影:飯村雅彦、音楽:青山八郎、照明:川崎保之丞、主な配役:高倉健(沖田哲男)、山本圭(古賀勝)、織田あきら(大城浩)、郷硏治(藤尾信次)、宇津宮雅代(沖田の妻・靖子)、菅原安人(沖田の息子・賢一)、風見章子(靖子の母)、森みつる(古賀の女・洋子)、田中邦衛(古賀の兄)、宇津井健(運転司令長・倉持)、千葉真一(運転士・青木)、小林稔侍(運転士・森本)、志村喬国鉄総裁)、志穂美悦子(東京駅交換嬢)、渡辺文雄(公安本部長・宮下)、竜雷太(鉄道公安官・菊池)、仲原新二(公安一課長)、丹波哲郎*1警察庁刑事部長・須永)、鈴木瑞穂(捜査課長・花村)、久富惟晴(警察庁特査係長・広田)、青木義朗(警察庁刑事・千田)、浜田晃(警察庁刑事・長田)、黒部進警察庁刑事・後藤)、川地民夫(道警刑事・佐藤)、田坂都(平尾和子)、藤田弓子(女医・秋山)、伊達三郎(商人風の男)、岩城滉一(東郷あきら)、十勝花子(女客A)、多岐川裕美(SAS係員)。
ヤン・デ・ボンの『スピード』(1994)がそのアイデアを借用した作品として、再注目された大作映画です。沖田哲男(高倉健)によって爆弾を仕掛けられた「ひかり109号」は、いったん走り出したら、時速80キロ以下に減速することができず、もしも減速したら爆発してしまう…という、ATCシステムの脆弱性を利用した大犯罪。それに立ちむかう運転司令部と警察。
豪華なキャスティングはさることながら、内容もじつに見事な映画です。あちこちで絶讃されているので、もう繰り返したくはないのですが、この映画のよさは、見せ場につぐ見せ場にあります。むろん、過剰演出も随所にみられるのですが、それをばかばかしく見せないための工夫もみられます。警察の対応のいちいちが裏目に出て、後手にまわってしまうという展開も、かえってリアリティがあります。
題名からすると、派手な演出が満載の特撮映画だと考えてしまいがちなのですが、そうではなくて、物語をひたすらドラマチックに展開させ、観客をぐいぐい引張っていってくれます。冒頭ちかくの貨物列車の爆破シーンのほかには、これといって派手な演出はないのですが、それだけが「大作映画」の要諦ではない、ということがよく分る映画です。センチメンタルな回想シーンも、違和感なく作品に溶け込んでいて、集中力を持続させてくれます。そこに見せ場をどんどん投入していき、まったく息をつかせません。その押しの強さがすごい。また、様々の人物の視点から描かれる―つまり「主人公」がたくさんいる―のも、この映画の魅力のひとつです。まずはアウトローの主人公・沖田哲男。組織としての選択と個人としての選択のはざまで悩む倉持。爆弾が仕掛けられたひかり109号を必死に運転し、しばしば倉持と対立する青木…。
見せ場のひとつ、金の受け渡しのシーンは、『天国と地獄』(1963)のそれにひねりが加えられていて、たいへん興奮させられます。ラストは、健さんが出ている―ということもあるのですが、「ああ、これはまさに『野性の証明』じゃないか…」とついついおもってしまったのでした。先の読めない展開に身をゆだねるだけの、「説明不要」の映画が、まれに名作をうむ。そのよい例です。
この映画については、もう語りつくされた感もありますし、樋口尚文さんの素晴らしい分析があるので、ここらでもうやめておきましょう。最後に、樋口氏の文章から一部を引用しておきます。

『砂の器』と『日本沈没』 70年代日本の超大作映画
当時の決して潤沢とは言えないはずの製作条件下で、『新幹線大爆破』をここまでの作品として成立させたのは、ほかでもない佐藤純彌のコスト・パフォーマンスへのまなざしなのであり、それこそ佐藤純彌が大作監督としてプロデューサーに重宝がられた一番のポイントであったことだろう。(中略)佐藤純彌は、作品を常に淡々と、あたかもバジェットを均等に映画全体にならすかのごとくに撮りたがる。これは言ってみれば、映画の画面につぎこまれる物量ではなく、物語を欲張らないトーンのもとでとんとん進行させてゆくことで見せきろうとする発想である。佐藤純彌の一貫した語り口のめりはりのなさは、映画工場としての撮影所のなかで培われた、フラットに予算をはみ出さずに作品を作り上げる一種の職人的な美徳(体質?)なのであろう。
樋口尚文『「砂の器」と「日本沈没」 70年代日本の超大作映画』筑摩書房,2004.p.121-122)

樋口氏によれば、佐藤の「一貫した語り口のめりはりのなさ」が、脚本にマッチすれば、その作品は「傑作」になりうる。その貴重な作品のひとつが、『新幹線大爆破』なのだそうです。
なおこの映画は、フランスのゴーモン社が買いつけて、『スーパーエクスプレス109』*2という題名で公開され、パリで大ヒットしました(樋口前掲書)。

*1:特別出演。

*2:「人間ドラマ」の部分などが削られたので、日本版より約四十分短いのだそうです。