ヒンケル語は笑う

朝から雨。昼過ぎに大学へ。
F書店で、江戸川乱歩『化人幻戯(けにんげんぎ)』(光文社文庫ISBN:4334738664。まえに書きましたが、いちばん好きな乱歩の長篇です。三度読みました。ポプラ社少年探偵シリーズ版『化人幻戯』(題名は『白い羽根の謎』*1)もあわせると、五回読んだことになります。
中学一年生の夏休みに、近所の小さな本屋*2角川ホラー文庫版『化人幻戯』を買ってきて、隠れてこそこそ読んだことをおぼえています。堂々と読んではイケナイような気がしたからです。
大学で、林史典「日本の漢字音」(中田祝夫・林史典『日本の漢字』中公文庫所収)ISBN:4122036542(p.331-391)を読む。明日は後半部を読む積りです。撥音便を起した拍と後続の子音との関係や、舌内入声韻尾(-t)・喉内入声韻尾(-k)の話(前寄りの-t は-i を、奥寄りの-k,-k' は-u を寄生しやすい。しかし前者も-u を寄生するようになった。林氏はその理由について、短促性を保存するためだ、と書いています)など。
ところで中央公論社(当時)の「日本語の世界」は、いったい何冊文庫化されているのでしょうか。『日本の漢字』はその一冊で、私はほかに『国語改革を批判する』と『沖縄の言葉と歴史』を所有しています。『日本語はいかにして成立したか』『詩の日本語』『翻訳の日本語』も出ていたはずなのですが、それ以外にあるでしょうか。
まったく話はかわるのですが、いま大野裕之チャップリン再入門』(NHK出版生活人新書)ISBN:4140881410、これがめっぽう面白い。私は、『犬の生活』(1918)や『キッド』(1921)、『モダン・タイムス』(1936)などが好きで、それらよりもむしろ評価の高い『独裁者』(1940)はあまり好きではありませんでした。というのは、チャップリンにしてはあまりにも表現が露骨で、ヒンケル語(デタラメのドイツ語)の意味もわからないので、少々退屈したからです。しかしこの本は、ヒンケル語の「解読」をこころみていて(世界初だとか)、これが面白い。それから改めて、『独裁者』は「チャーリー」が全てを賭してつくったメタ・フィクション(というよりも「映画なのか現実なのか」が「もはや問題とならない地平」、と著者は書いている)である、ということを強調しています。もう一度、きちんと向き合ってみるべき作品なのかもしれません。

*1:ただし、正確にいうと乱歩の作品ではなく、別人によるリライトです。

*2:以前は講談社大衆文学館なども置いていたのですが、いまは規模も縮小して、特定の作家の本しか置いていません。