古本屋めぐりを追体験

晴れ。
研究室の「O文庫」(通称)に、鹿島萬兵衛『江戸の夕栄』(中公文庫,1977)があったので、(こっそり)頂きました。嬉しい。これで、来月の中公文庫ビブリオ発売まで待たずにすみます。
角田光代・岡崎武志『古本道場』(ポプラ社)読了。めでたく、増刷が決まったのだそうです。サインを頂きに行けないのが残念だ…。いやー、それにしても面白く読みました。関東の古本屋にはほとんど行ったことがないのですが、岡崎さんのマニアックかつユーモア溢れる文章*1によって、あるいは角田さんの達意の文章によって、あるいは随所にはさみ込まれている徐美姫さんの写真によって、角田さんの古本屋めぐりを追体験することができて、大変たのしかった。
以下に、特に心にのこった箇所を抜書きしておきます。

古本屋さんはその「可能性」*2を橋渡しする、物語を引き渡す仲介者、というわけだ。佐藤さんの活動を見ていて、古本屋さんは、古本を通じて自己表現をしているんだなあ、と思う(していない店もたくさんある。いや、ほとんどは自己表現をしていない。しかし、それはそれでいい)。だから客であるわれわれは、そこから刺激を受けるのだ。(岡崎武志,p.134)

どの店にもその店だけの温度というものがあり、その温度を感じるだけでも楽しかった。正直を言えば、楽しいよりもっと、安堵するほうが私には大きかった。本は、消費され、忘れられ、消えてしまう、無機質な物質ではなくて、体温のある生きものだと実感できて、私は何かほっとしたのである。(角田光代,p.214)

それから、光文社文庫版の乱歩全集。この巻末エッセイは、読んだり読まなかったりだったのですが、これはきちんと読むべきですね。それというのも岡崎氏が、次のように書かれているからです。

もとは光文社発行の少年探偵シリーズを、いかにポプラ社が獲得するか。光文社から刊行中の江戸川乱歩全集『透明怪人』巻末エッセイに、ポプラ社編集部の井澤みよ子さんがそのあたりの涙ぐましい話を「世代を超えた稀有なシリーズ」と題して明かしている。これは少年探偵団ファン必読の文章だぞ。(同上,p.31)

毎月購っているのに、それは知らなんだ。おおいに反省。
また帰途、F書店で村松友視『ヤスケンの海』(幻冬舎文庫)を購いました。

*1:役割語」で書かれていることによって、その効果が倍増しています。「役割語」については、金水敏先生の『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店)をご覧下さい。また毎回、歌を一曲ずつ取上げているのも楽しい。

*2:古書日月堂店主・佐藤真砂さんの次の文章―「古本屋をやっていて思うことの一つに、モノや人が消えていくということは、それはそのまま、その記憶や記録の消滅を意味する、ということがあります。せめてモノだけでも残ってくれれば、そこにまつわる『物語』を知りたいと思い、知ろうとする人が現われる可能性だけは、残るのではないかと思うのです」―を受けています。なお佐藤真砂さんについては、岡崎武志さんの『古本極楽ガイド』(ちくま文庫)p.150〜170に詳しい。