日経の記事

日本経済新聞』の、経済とは関係のない記事が、私にとっては面白い。
わけても楽しみにしているのが、「SUNDAY NIKKEI α」。「読書」とか「セカンドステージ」とか「詩歌・教養」とか「サイエンス」とか「ファミリー経済」とかで特集が組まれ、これが知見をひろめるのに役だちます。
今日の「セカンドステージ」には、「再びラジオに熱中―増える団塊世代向け番組」(木戸純生)という記事や、「日記をのぞく―夏目漱石『ロンドン留学日記』(3)」(柴崎信三)という記事が掲載されています。この「日記をのぞく」がいつも面白くて、藤原定家『明月記』や武田百合子富士日記』が取上げられてきました。
「読書」面に目を転ずると、今日は桶谷秀昭さんによる『昭和初年の「ユリシーズ」』評や、松本健一さんによる『竹内好という問い』評などが載っており、「活字の海で」は「『古本愛』語る本相次ぐ―古書の森への手引書」(中野稔)と題して、岡崎武志 角田光代『古本道場』(ポプラ社)、坪内祐三『古本的』(毎日新聞社)、嵐山光三郎『古本買い 十八番勝負』(集英社新書)、紀田順一郎『書林探訪』(松籟社)を取上げている。その冒頭部を引いておきましょう。

「古本には時間がつまっている」と古書好きは声をそろえる。刊行された時代の雰囲気を感じられる点が魅力というわけだ。こうした古本への愛情を、作家や評論家が語った本が相次いで登場している。“古本愛”にあふれた本は、奥深い古本の森に分け入る上で貴重な手引書でもある。

『日経』日曜版にはその他、「漢字コトバ散策」(興膳宏)という記事(今日の漢語は「航海」)があってこれも楽しみにしているのですが、土曜版の「ひと模様映画模様」(高橋治)がまた面白い。邦画好きなら必見です。
「ひと模様映画模様」については、以前も書きましたが、高橋氏自身が「これは私が映画について語る最後のものになるかも知れない」(第一回,2005.1.9)と書いているだけに、面白くないはずがありません。
そして連載ものの特性というべきなのか、書き手が意識しないうちに話の展開が変ったり、世の中の動きに影響をうけたりするようすが、読み手にも「生々しく」伝わってきます。
たとえば、字数に制限があることもあって、「オーソン・ウェルズが『市民ケーン』を撮った時のように、一人の天才がいれば確かに名作は生まれる。但し、その天才を支えるプロ集団があっての話だ。その仕事を果たすのに欠かせないのが、実は撮影所出身者なのである」(第二十七回,7.9)と結論せざるをえなかったことに、「前回は少々舌足らずな語り口になってしまった。その分を補いつつ話を進める。私のいいたかったのは、プロ集団でなくては良い映画が作れないということではない。映画を作るには様々な形がある。それこそ、一人の天才や、映画に意欲を燃やす人を中心に、アマチュアの域を出ない人が集っても映画は製作し得る」(第二十八回,7.16)と補足して誤読を回避するわけです。すると、その後の話の展開も若干変ってくる。
また、こんな例もあります。今年の四月八日に野村芳太郎さんが亡くなりましたが、それを受けて高橋氏は「残念ながら、(野村監督は―引用者)小稿執筆中に亡くなられた」(第十五回,4.16)と前置きしたうえで、「野村監督と又さん(川又繡カメラマンのこと―引用者)の仕事といえば、やはり誰の目から見ても最高といえるのが『砂の器』だろう」と書き、その『砂の器』がドルビー・システムなどによって生れ変る、という話になるわけです。第十六回の冒頭にもやはり、野村監督の話が出てくる。
リアルタイムで読む記事は、読者を思わぬ方向へと導いてくれます。まとまった形の本として読む場合とは別の楽しみや味わいが、そこにあるのでしょう。