女優うちあけ話

出費がかさむ。某フォーラムの参加費と懇親会費。雑費(ノート、ヴィデオテープ、接着剤など買う)。だが、嬉しい出費も幾つか。たとえば阪急三番街で、『時代別 国語大辞典【上代編】』(三省堂)4000円、富士正晴紙魚の退屈』(人文書院)600円。
森赫子『女優』(実業之日本社)をパラパラと。生まれた頃の記憶が云々……という冒頭ちかくのエピソードで、『仮面の告白』を思い出す。関東大震災の体験記が生々しい。銀幕デビュー作の野村芳亭『さすらいの乙女』は、川崎弘子の代役であったとか。それは知らなかった。また、p.109 あたりから始まる「S先生」との不倫話は、当時としてはそうとうスキャンダラスだったのではないか。それは例えば荻野目慶子以上に。
またすごいのは、森が昭和二十三年に結成した「木の実座」(久保田万太郎命名)の顔ぶれ。「文芸部の若い人も三四人集められ、作者の相談役に北条(秀司―引用者)先生、八木(隆一郎―引用者)先生、勿論阿木(翁介―引用者)さんが奔走して下さって、中江(良夫―引用者)先生、小沢(不二夫―引用者)先生など、一日栄屋で演し物の相談などしていたゞいた。そして第一回は北条先生の『終列車の客』と『出家とその弟子』ということになった。そして顧問として久保田(万太郎―引用者)先生、里見(紝―引用者)先生、伊藤(整―引用者)先生など偉い方々が並んだ」(pp.178-79)。
ところでこの本、小田原市多古にあった(ある?)「しらかば文庫」に蔵されていたものらしい。裏表紙の見返しの部分に、川口松太郎市川紅梅・大江良太郎・花柳章太郎と、(同じ筆跡で。多分、大江の)借り出したらしい人の名が記されている。ちなみにいうと、川口松太郎花柳章太郎市川紅梅は、この本に登場している。
芸術とスキャンダルの間――戦後美術事件史 (講談社現代新書)
大島一洋『芸術とスキャンダルの間―戦後美術事件史』(講談社現代新書)読了。面白い。滝川太郎贋作事件(この事件の経過については確か『日録20世紀special』にも書かれていたよな……と思って読んでいたら、当該記事が引用されていた)、永仁の壺(メタ構造でお馴染みの『墓場鬼太郎』第二巻にも出て来た)、佐野乾山騒動、「マルセル」、模型千円札裁判、マッド・アマノのパロディ裁判くらいしか知らなかった*1。淡々とした筆致で事件の経過を描写してゆくのだが、最後の最後が、ドキリ! とさせるような警句で結ばれていたり、著者自身の考えが述べてあったりするので、読み終えるまで油断できない。著者の大島氏は、『週刊平凡』『平凡パンチ』『鳩よ!』などの雑誌編集に携わっていた人。

*1:コラムでは、ごく最近のあの「パクり騒動」も取上げられている。