最近読んだ本

夕方から雨。
このところ、暇暇に読む本がどれもこれも――古本・新本をとわず――「アタリ」で、ますます読書のスピードが上がっている。しかも、何かしら用事に追われているときほど読書が捗るというこの逆説。
ここ数日間で読んだ本。岩瀬彰『「月給百円」サラリーマン――戦前日本の「平和」な生活』(講談社現代新書)。そういえば、谷崎の『痴人の愛』だったかに出て来るアパアトの家賃があれも確か「百圓」で、直ぐにはピンと来なかった。また「円本」の値段が、ある人によれば「現在の二千〜三千円に相当」、しかしべつのある人によれば「現在の五千〜六千円に相当」で、なぜか幅があって一定しておらず、「どっちなんだい!」となかやまきんに君ばりに叫びたくなってしまったこともある(岩瀬氏によれば、「円本ブーム」時の一円は、だいたい「二千円」に相当するのだという)。それから戦後まもない頃のインフレ期における物価も、現在の貨幣価値に換算するのがむつかしいけれど、いちおう『戦後値段史年表』(朝日文庫)というハンディながら便利な本がある。「明治・大正」(それから昭和前期)の部分も文庫化して欲しいのだが、なぜか文庫に入っていない(はず)。
そういえば、大島一洋『芸術とスキャンダルの間』は、芸術品の価格が現在の何円くらいに相当するのか丁寧に示されてあったのでたいへん有難かった。
田中純一郎『日本映画発達史Ⅰ 活動写真時代』(中公文庫)。今さらながらこの名著を。『洞窟絵画から連載漫画へ』の邦画版、などと言うと褒め過ぎか。でも面白いんだもの。田中の『秘録・日本の活動写真』がワイズ出版から出たのは確か一昨年だったと思うが、「活動写真の名付け親」すら立読み出来なかったことを後悔している(現在はよく行く本屋の店頭から消えている)。
芸能鑑定帖
吉川潮『芸能鑑定帖』(牧野出版)。私はむしろ、連載ものは本になってから纏めて読むタイプだから、連載時は一回も読んだことが無かった。まずは「小津作品を見よう」にニヤリ。TV版『秋刀魚の味』評には溜飲が下がる思いがし、「昔の女優は絶対に見せなかった嫌な表情だ」(p.30)にその通りだと頷く。「きみまろなんて認めない」にハッとし、「森繁久彌と芸達者たち」に何度も目を通す。「借金があるのもスターゆえ」「勝太郎映画祭」「演芸に対する好意と愛情」に著者の懐の深さを感じ、「こぶ平正蔵襲名に物申す」「快楽亭ブラックの不始末」で思い切り突放されたかと思うと、「小沢昭一の凄さ」「日本一の客席王・斉藤清六」にホッとする。それと「恐るべし上方落語パワー」(pp.262-64)、いったいどなたが取上げられているのかと思ったら、笑福亭福笑さんだった。