学会

晴れ。
学会の日。
目覚めると、なんと九時半。午前の部はあきらめて、午後の部から出席することに。
今日の「お供本」は、ウワサの坪内祐三『古本的』(毎日新聞社)。初出誌の『毎日グラフ・アミューズ』や、『GIALLO』は、まったく読んだことがありません。
前から順番に読んでいるというわけではなくて、気になるところから読んでいます。たとえば、「杉山龍丸という人物―杉山龍丸『飢餓を生きる人々』―」、「上林暁の古本市随筆―上林暁『文と本と旅と』―」、「国語学者が伝える『名士の面影』―保科孝一『ある国語学者の回想』」、「ミステリ嫌いの私が堪能した都筑道夫」というようなところから。
ところで私も、いちおう「熊本人」の端くれですから、上林暁*1梅崎春生徳富蘇峰徳冨蘆花*2林房雄木下順二、徳永直という面々*3はやはり「気になる存在」なのです。しかし、実はほとんど読んだことがありません*4。もっともよく読んでいる(と思われる)上林暁でも、集英社版『日本文学全集52 上林暁 木山捷平集』、坪内祐三編『禁酒宣言』(ちくま文庫)に収められている諸作品を読んだにすぎません。
まあとにかく、坪内さんによる「編者解説」(『禁酒宣言』)や、今回の「上林暁の古本市随筆」もおもしろく読んだわけです。上林の「荻窪の古本市」を、『東京百話』の一篇として読むのではなく、『文と本と旅と』で読むことの幸せ。これも、古本買いの楽しみであるといえるのかもしれません。
それにしても、次から次に読みたい本が出てきて困る(笑)。再読しようとおもった本もいくつか。たとえば、横溝正史横溝正史自伝的随筆集』*5角川書店)とか、高山宏『殺す・集める・読む―推理小説特殊講義』(創元ライブラリ)とか。
十二時半ころ会場に着く。午後の部がはじまるまでには、まだずいぶん余裕があります。
まずは予稿集を買う。各社による書籍の展示販売会も開催されているので、さっそくその会場へ。Qさんとばったりお会いする。一万円以内の本で欲しいものがあれば買おう、と心に決めていたのに、欲しい本は一万六千円とか二万四千円とかの値がついている。二割引で販売されていましたが、だからと云って簡単にポンポン買えるようなものではありません。
とりわけ私の目を引いたのは、府川充男『聚珍録(しゅうちんろく)』(三省堂)*6。実物を見たのは、これがはじめてです。府川充男『難読語辞典』のプロフィールページに、「本書とほぼ同時進行でライフワーク『聚珍録 近代日本〈文字―印刷〉文化史』(三省堂)制作の最終局面に入っている」とあったので、ずっと気になってはいたのです。
もちろん私にこれが買えるはずもなく、ただ指をくわえて見ていただけ(正確にいうと、見本の頁を興奮しながらめくっていただけ)。しかし、インパクトのある「出会い」でした*7
午後の第一部は、研究発表の選択を誤ってしまいました。ちんぷんかんぷん。発表者に問題があるのではなくて、私の理解が及ばないということです。
休憩時間中に、きのうの飲み会でお会いしたIさんに声をかけられる。私が何度かいた会場で、マイクとベルの係を担当されていました。きのう彼女が家にたどり着いたのは午前一時で、起床は六時だとか。こういう方々の支えがあってこそ、会はスムースに運営されるのでしょう。
午後の第二部は、興味ふかく拝聴。会の終了後、校門のところまで出ていると、べつの会場にいたK君から電話が入る。待っていてくれたのです。QさんやHさん、K君らと帰る。
帰途、Rに寄って、以下の二冊を拾いました。
山根一眞『変体少女文字の研究』(講談社文庫)105円
都筑道夫都筑道夫ひとり雑誌第2号 掘出珍品大特集』(角川文庫)500円
そういえばさっき、『週刊ブックレビュー』でシリーズ「ニホンゴの世界(3)」が放送されていたことをおもい出し、慌ててテレビをつけましたが、杉本つとむ先生がちょうど話を終えたところで残念。石山茂利夫さんの回も見られなかったしなぁ…。

*1:ペン・ネームは、熊本市上林町七五森山方に下宿していたことに由来します。その附近には「舒文堂河島書店」や「天野屋書店」があって、帰熊したときはよく立寄ります。岡崎武志さんの「上林暁『聖ヨハネ病院にて』文学散歩」や「熊本上林町の上林暁」(いずれも『古本極楽ガイド』所収)は、上林作品を読むための絶好の手引となりましょう。

*2:兄弟で「富」「冨」を使い分けていたようにおもうのですが、忘れてしまいました。ご存じのかた、ご教示下されば幸です。

*3:言うまでもありませんが、彼ら全員が「熊本出身の作家」というわけではありません。「五高出身者」がかなり混じっています。

*4:最近の作家は、梶尾真治(エッセイ集と、『ドグマ・マ=グロ』しか読んでいない)くらいしかおもい当りません。

*5:そういえば、この本の編者解説「正史もまた永遠にして不滅である」(新保博久、正史の「乱歩は永遠にして不滅である」をふまえている)を読んで、すぐさま『真説 金田一耕助』をネット古書肆で入手したのでした。ところで、新保さんはここで「本書に収録しきれなかった旧稿を集めて『金田一耕助と私』として他社より刊行する心づもりもある」と書かれているのですが、未だにそれらしい本が刊行されたとは聞かない。

*6:余談ですがこのリンク先の文章に、「随分と府川氏の片腹を痛くさせている事であろう」という一文があるのですが、これは洒落の積りなのでしょうか。本来は、「傍ら痛し」であるはず。

*7:その後、某先生とお会いすると「聚珍録は見たか」と訊かれました。