『京言葉』

 Oの一冊二百円コーナーを覗くと、
・楳垣實『京言葉』(高桐書院,1946)
・楳垣實『京言葉』(高桐書院,1949)
があったので、二冊とも購う。まったく同じ本であるかのように見えますが、少し違う。
 前者は初版本、後者は再版本。それだけではない。まず、前者は「京都叢書」*1の一冊(第五篇)として刊行されていますが、後者は違う。しかも後者は装釘が妙に凝っている(扉裏に、「高木四郎 装釘」とあります)。
 中身を見てみると、ほとんど同じなのですが、ところどころ書きかえてある。
 たとえば「概説篇」の相違点は二箇所あって、そのうちの一箇所を挙げておくと、初版で

今我々が知ることの出來る最も古い國語は奈良時代のもので、それ以前の建國以來千四百年ばかりと稱される長い間の上代國語が、どんな變遷をして來たものか、記録がない爲直接には知ることが出來ない。

となっている部分(p.11-12)が、再版では、

我々が確かに知ることの出來る古い國語は、奈良時代のもので、それ以前の千四百年ばかりと稱される長い間の上代國語が、どんな變遷をして來たものか、記録が殆どない爲直接には知ることが出來ない。

となっています。また、初版は巻末に「京都わらべうた抄」が附されていますが、再版ではこれが削られ*2、そのかわりに「補遺」(学界の反応も記す)と「方言關係著作目録」を新たに附しています。
 さらに目を引くのが値段。初版は「拾八圓」ですが、再版は「180圓」。つまり、たった三年間で十倍になっているわけです。
 『戦後値段史年表』(朝日文庫)を見てみると、モノの値段の上昇がいちばん激しいのは、ちょうど1945年〜46年、1947年〜49年あたりなのです。
 参考までに、『戦後値段史年表』から具体的なモノの値段の変化をいくつか拾っておきます。

小豆(一升あたり)…二円二六銭(1946)→四三円七〇銭(1949)
ウイスキー(720mlあたり)…四四円(1946.3)→五五四円七九銭(1949.5)
ガソリン(1ℓあたり)…一円二〇銭(1946)→一七円七〇銭(1949)
京都市電乗車賃(均一制)…三〇銭(1946)→八円(1949)
純金地がね(1gあたり)…一七円(1946)→三八五円(1949)

*1:巻末の目録を見ると、この叢書には、吉井勇『京洛遊草』、芿水光『映畫と京都』、新村出『加茂川(隨想)』などが入っています。そのほとんどが刊行予定のもの(当時)です。

*2:「補遺」では、「拙著『京都のわらべ唄』に詳しく述べた」ために割愛した(p.299)、と説明されています。