小栗康平

小栗康平監督作品集 DVD-BOX
「寡作の監督」小栗康平さんの『埋もれ木』が、現在公開中です。これにあわせて、小栗康平『映画を観る眼』(NHK出版)が刊行されたり、BS2がその監督作品を放映したりしています。DVD-BOX も出ました。昨日は、『泥の河』(1981)がかかっていました。途中から観たのですが、ついつい最後まで観てしまったのでした。この作品はかつて(六、七年前)、「シネマダイスキ」の特集「少年時代」で放映されたことがあり、そのときは録画して観ました(宮本輝の原作は読んでいません)。松本銀子(柴田真生子)と喜一(桜井稔)の殆ど会話のない「やり取り」が切なくて、ラストで舟を追う板倉信雄(朝原靖貴)の姿が印象的です。双葉十三郎氏も、たしかこのシーンに着目されていたのではなかったかと思います。この作品は、私にとってはいわゆる「名画」なのですが、たとえば蓮實重彦氏は、かなり手厳しく批判しています。

映画狂人 シネマの煽動装置
人は、多くの美点をそなえているとはいえ小栗康平の『泥の河』を積極的に評価してはならないし、ましてやそれが久し振りの黒白映画だといった点に心を動かされてもいけないはずだと思うのだが、(中略)たとえばブライアン・デ・パルマの『殺しのドレス』は失敗ですらない、小栗康平の『泥の河』は失敗ですらない、であるが故に駄目なのであり、(中略)『泥の河』あたりの緊張を欠いた画面の連鎖とは比較にならぬ映画的な力をあたりに波及させながら(以下略)
蓮實重彦『映画狂人 シネマの煽動装置』河出書房新社,p.80-108)

何べんも引用されているところを見ると、決して嫌いな作品ではないのだろうな、と思ってみたりもするのですが、「失敗ですらない」というのはいかにも辛辣です。
さて、今日は『伽や子のために』(1984*1が、明日は『死の棘』(1990)が、明後日は『眠る男』(1996)が放映されます。そういえば『死の棘』も、面白く観ました。これは、六、七年前の年末に深夜テレビでかかっていたので、録画して次の日の朝に観ました。ミホ役の松坂慶子の鬼気迫る演技が素晴らしく、岸部一徳(トシオ)と並んで座っているラストの長回しが記憶に残っています。
これを観て、島尾敏雄の『死の棘』を読んでみよう、とおもったのですが、未だに読んでいません。さいきん刊行された『「死の棘」日記』も、本屋でパラパラと立読みしただけです。

*1:「や」は、「人偏」に「耶」。