浪人吹雪

ときどき雨ふる。
昼ころ家を出て、O書店に寄ると、文庫棚に獅子文六『父の乳』(新潮文庫)があったので迷わず買う。500円。かつて買い逃して、後悔したことがあるのです。そのときは確か1000円だった。
四限目の授業に出席し、研究室に戻ってくると、O文庫に出久根達郎『古本綺譚』(中公文庫)があったので頂きました。その後、友人K君の発表を聞く。Qさんも今日が発表だったので、演習後に三人でお疲れさま会。二次会が終ったのが、だいたい午後九時半。
帰ってから、所用を済ませて、近藤勝彦『浪人吹雪』(1939,東宝)を観ました。約一時間の小品。原作は、吉川英治の「洟*1かみ浪人」。「サンデー毎日」に連載されていたものらしい。セットはあの中古智。主演が長谷川一夫で、浅野内匠頭・不破數右ヱ門の二役。タイトルロールを注意して見ていると、二役であることがすぐに分るのですが、前半はカメラがパンするシーンが幾つかあって、浅野と不破とがあたかも同じ場所にいるかのような錯覚を起こしてしまいます。言い忘れたけれど、撮影は伊藤武夫。
浅野内匠頭はもちろん格好良いのですが、不破は三枚目で、小染(竹井千恵子)にも「薄気味の悪い男」「芋虫」などと呼ばれている。しかし不破は、直情型で正直者だから誤解されやすい、というだけで、実は正義感の強い一本気な男なのです。浅野をはじめ周囲の者たちは彼をだんだん理解していく。その過程が見ものです。
圧巻は、殿の御書状を紛失したと不破が誤解するシーンでしょう。「もはやこれまで」と切腹を試みる彼が(先の展開が読めるだけに)なんだか滑稽で、おもわず笑ってしまいました。ラストシーンは、まるで「股旅物」のような余韻を残します。
あ、そうそう、奥方として元成瀬夫人「千葉早智子」が出ていたことには、全然気がつきませんでした。
ところでこの作品は、1955年にも北上弥太朗主演で映画化されているらしく(倉橋良介監督)、goo映画であらすじ(「ネタバレ」要注意)を見てみましたが、後半の展開が全く違う。
もっとも、goo映画のあらすじは原作に依拠していたり、改変される前の台本にもとづいていたりするので*2、映画のストーリーに忠実である、とは限らないのですが。

*1:正確にいうと、この字ではなく、サンズイに「鼻」。そんな字は見たことがなかったので、『大漢和辭典』を見てみましたが無い。そこで『中華字海』を見ると、確かにあったのですが、「大水暴発声」とある。しかし字義はたぶん、「洟」と同じなのでしょう。

*2:もちろん『浪人吹雪』の場合は、リメイクにあたって全く別の展開が用意された、という可能性もあります。