乱歩フェアふたたび

今日は、家で熊工‐前橋商戦を観戦する積りだったのですが、集中講義が面白いと聞いたので、聴講してみることにする。五回の途中で、家を出る。
光文社文庫の発売日だったことをおもい出し、ついFに寄る。明日の古本まつりのことを考えると、あまり散財したくないのですが、ついつい、江戸川乱歩松本清張共編『推理小説作法―あなたもきっと書きたくなる―』(光文社文庫)を購う。
挟み込んであるチラシをみてみると、また「江戸川乱歩フェア」が始まったとかで、完全覆刻版のB.D.バッジを「再び」1000人にプレゼントするのだそうです。
「再び」というのは、昨年の夏にも、「江戸川乱歩フェア」があり*1、B.D.バッジをプレゼントする、と大々的に宣伝していたからで、それに応募するためには、ハガキに応募券を貼る必要があった。そこで慌てて文庫を買ったのですが、応募券とやらがどこにも附いていなかった。あとで気づいたことなのですが、それはフェア用の帯にしか附いていなかったのです(私が買った文庫には、まだフェア用の帯が巻かれていなかった)。その後、新本屋でフェア用の腰巻が附いた文庫を見ては溜息を吐いていたものです。
のちに、実は途中から応募券なしでも応募できるようになった、ということをある人から聞いたのですが、しかし応募期間はすでに終了しており、さらに意気消沈。
今回はもう、「応募券」は要らないようだ。さあ送らなければ。どんどん送らなければ。
閑話休題。その「江戸川乱歩フェア」の一冊として出たのが、『推理小説作法』。四十六年ぶりの復刊だそうです。内容は値段のわりにはかなり充実していて、なかなか豪華な執筆陣。以下にご紹介しましょう。

「まえがき」江戸川乱歩
推理小説の歴史」中島河太郎
「トリックの話」江戸川乱歩
「動機の心理」大内茂男
「素人探偵誕生記」加田伶太郎
推理小説のエチケット」荒正人
「現場鑑識」平島侃一
推理小説とスリラー映画」植草甚一
推理小説の発想」松本清張
「あとがき」松本清張

既読のものは、「推理小説の発想」のみ(松本清張『私のものの見方 考え方』学陽書房人物文庫所収。しかし、こちらは「私の創作ノート」以降を収録していない)で、「トリックの話」も読んだことがある、と思っていたら、それは「トリックについて」(江戸川乱歩『変身願望』河出文庫所収)という別の文章でした(内容も似ている)。
ところで、加田伶太郎福永武彦)「素人探偵誕生記」には、ペンネームの由来について書いてある。わりと有名な話ですが、引用しておきます。

そこで半日をつぶして、まず自分の名前を製造にかかった。それをアナグラムで行くつもりで、やたらに原稿用紙にローマ字を書き散らした。アナグラムというのは、文字の置き換えである。たとえばそのうまい例に、モーリス・ルブランの作品に、ドン・リュイス・ペレンナと呼ぶスペイン貴族が活躍する。この人物はアルセーヌ・リュパンその人の変装だが、じつは初めから作者は手のうちを見せているのだ。Luis Perenna を入れ換えれば Arsene Lupin となる。この式を真似するつもりで僕の考え出したのが、加田伶太郎(Kada Reitaro)つまり「誰ダロウカ」(Taredaroka?)である。(p.130)

このことは、桑原茂夫『ことば遊び百科』(筑摩書房)にも書いてありましたが、こちらは仮名で説明している。たしかに、ローマ字で考えるよりも(“i”の処置に困るので)、「たれだろうか」→「かだれーたろう」と考えたほうが分りやすいかもしれません。
そうそう、そういえば九月には、木々高太郎有馬頼義共編『推理小説入門― 一度は書いてみたい人のために―』が文庫で出るのだそうです。これも楽しみ。
結局、集中講義にはひとコマだけ出席。その後、高校野球の試合結果を知り、ややガックリ。今年は、九州勢がほとんど残っていないなあ。
新・男はつらいよ [DVD]
夜、小林俊一『新・男はつらいよ』(1970,松竹)を半分くらい観る(脚本は山田洋次宮崎晃)。マドンナは栗原小巻。泥棒を取り押さえるシーンで、「ヒャクトウバンてのは何番だっけ?」というギャグが出てくることに気づく。このギャグはたしか、春原政久『英語に弱い男 東は東西は西』(1962,日活)にも出てきたはず。小沢昭一らが子供を誘拐されたと早合点するシーンだったかと思います。
また手許のメモによると、このギャグは、のちに山田洋次朝間義隆が脚本をかいた『釣りバカ日誌イレブン』(2000,松竹)にも出てくる(監督は本木克英)。こちらは「救急車」を呼ぼうとするシーンでつかわれたギャグなので、ちょっと手がこんでいます。

*1:このフェア時に、かつて文春文庫に収められたものの絶版になっていた小林信彦『回想の江戸川乱歩』が復刊された。