小説吉田学校

レジュメ作成。
長い長い論文も読む。目が疲れたので読書。目が疲れたから本を読む、というのは明らかにおかしな話だが、これが私にとっての息抜きなので、いやはや仕方があるまい。
今日は、ちょうど源氏鶏太の没後二十年に当る日である。そこで、源氏鶏太『私にはかまわないで』(集英社文庫)を読み始めることにする。
午後、森谷司郎小説吉田学校』(1983,東宝)を観た。戸川猪佐武の原作は読んでいないが、さいとう・たかをがそれを劇画化した『歴史劇画 大宰相』(講談社+α文庫,全十巻)*1は、興奮しながら読んだことがある。映画は、この文庫版の巻次でいうと、第四巻「池田勇人佐藤栄作の激突」の途中までを描いている。ただし、鳩山内閣成立以降はその経過を追うのみで、丹念に描かれているのは第二巻「鳩山一郎の悲運」まで、すなわち吉田内閣(第五次)が総辞職し、鳩山内閣が誕生するまで――、である。
本作品の実質的な主人公は吉田茂なので、「保守大合同(いわゆる五十五年体制の成立)」はあっさりと描かれているだけで*2、片山・芦田内閣にはふれていない。ただ淡々と、吉田の総理としての孤独を描いている。大磯の浜辺で犬と戯れる吉田の姿がそれを象徴している。
森繁久彌吉田茂)は、まるで吉田の亡霊が乗り移りでもしたかのような熱演ぶりである。若山富三郎三木武吉)は、ちょっと貫禄がありすぎるような気もする。三木武吉といえば、もっと痩身で、目つきだけが異様に鋭い老獪な人物を想像していたからだ。
それから、私の勝手なイメージではあるが、これは適役だと思ったのが、芦田伸介鳩山一郎)、藤岡琢也(広川弘禅)、梅宮辰夫(河野一郎)、加藤和夫(増田甲子七)あたり。造船疑獄で指揮権を発動した犬養健は誰が演じるのだろうか、と思って観ていたが、犬養じたいが出てこなかった。
ところで、吉田を「裏切った」広川のその後が描かれていないので、浅川博忠自民党ナンバー2の研究』(講談社文庫)等に拠って補っておく。「バカヤロー解散」後の昭和二十八年。広川の選挙区である東京三区に、安井大吉(佐藤栄作が擁立した)が立って当選、議席を失った。その後(昭和三十年)、広川はカムバックを果すが、三十三年の総選挙で賀屋興宣(かやおきのり)が公認され、ついに東京三区を追われる。そのため故郷の福島に選挙区を移し、後には再び東京三区に戻るがいずれもあえなく落選。政界の「寝業師」になり損ね、「裏切者」と呼ばれたまま消えていった男の、寂しい末路である。
さて吉田茂は、ライバルの鳩山一郎三木武吉河野一郎の死を見届け、そして池田勇人の死を見届けてから永眠した。享年八十九。時に昭和四十二年。「角福戦争」が勃発するのは、その五年後のことである。

*1:原題は『劇画 小説吉田学校』。

*2:「保守大合同」については、ここで少し書いた。