『アインシュタイン・ショック』のことなど

大学へ行く。夜はアルバイト。
大岡昇平『成城だより(下)』(講談社文芸文庫)をぱらぱらと捲っていて、金子務『アインシュタイン・ショック』に触れたくだりがあることに気づいた。
大岡は書いている。「たまたま一九二二年のアインシュタイン来日の記録『アインシュタイン・ショック』(上・下、河出書房新社、一九八一年)を読む。一般と学界への影響、宮沢賢治の反応まで数えたる好著なるも、その中に『ア』博士『仕事がありますので』と客を辞して書斎へ退く一条あり。仕事とは日記を書くことなり。(中略)アインシュタイン日記は後日の伝記作家に資せし貴重なる文献なり。(中略)河出書房の本、上巻(日本の社会全般の反応を記せし部分)絶版となれるは惜しむべし」(p.131-32)。
絶版だったその『アインシュタイン・ショック』は、「世界物理年」(World Year of Physics)たる今年の二月〜三月、ついに岩波現代文庫*1に入った(二分冊)。これは、今年読んだ本のなかで、五指に入る大傑作であったと思う。興奮のうちに読了した。上下巻とも面白く読んだが、上巻の内容のみ、本ブログに記しておいた。実は正直にいうと、下巻の内容を記すことは、私の手に余る作業だと感じたのである(上巻だけでも、書こうと思ったが書けなかったことが沢山ある)。とにかく、ひじょうに面白い本です。
さて、新しい本棚の一角に収まっている『アインシュタイン・ショック』を取出そうとしたのであるが、その横に突っ込んでおいた『ホーキング、宇宙を語る』(ハヤカワ文庫)が気になった。百頁をこえたあたりで挫折してそのままになっている本。アーティストハウスから出た『ホーキング、未来を語る』は図版が多く、なかなか面白く読んだというのに。
しかし、無理もない。『未来を語る』の「訳者あとがき」で、佐藤勝彦氏はこう書いているのだから。「この本(『ホーキング、宇宙を語る』のこと―引用者)は高度な内容の本であった。私は、この本が出版された直後、英語版を物理学科三年生の演習の教材として用いたが、物理学を専門とする学生でも理解するのに苦しんだのを覚えている。また科学の解説書には不可欠である模式図なども少ない。一般の方々は読むのに大変苦労されたのではなかろうか」(p.235)。
それではしようがない、『宇宙を語る』の池内了「現代神話の語り部―ホーキング」でも読んで、わかった積りになろう。これなら読めるし、なんとなく理解できる。いわゆる「宇宙卵」についても、知ったかぶりができる。
ところで、池内氏はかつて、湯川秀樹から「(アインシュタイン来日時には)相対性理論風呂屋談義になった」という話を聞いたことがあるのだそうだ*2。それを引いて、池内氏は次のように書く。「科学者は、神話の語り部となる資格を持っているかのようだ」。

*1:先月は、フランクの『評伝アインシュタイン』が入った。矢野健太郎訳。

*2:その事例は、『アインシュタイン・ショック(Ⅰ)』に記されている。