タブロー・ド・パリ

雨。
このGW(金・土・日)、勧業館の即売会(五日迄)にも行かずワゴンセール・新古書店にも行かず(行けず)。発表資料の手直しをしたり本や論文を読んだりしていたら、いつの間にやら終ってしまっていた。だが、出不精の私には、こんな休日の過し方のほうが性に合っている。それに、今週は東京へ行かねばならないのだし、余計な出費はなるたけ控えておかなければ(と云いながらも新刊は買っているし、欲しい本がまだ山ほどある)。
夜、メルシエ著 原宏編訳『十八世紀パリ生活誌―タブロー・ド・パリ(上)(下)』(岩波文庫ISBN:4003345517 ISBN:4003345525 をすこし読む。これは、紀田順一郎氏が、安原顯編『ジャンル別 文庫本ベスト1000』(学研M文庫)所収の「ノン・ジャンル ベスト50」で32番目に挙げていた文庫本なのだが、各記事がひじょうに短いので、好きなとき・好きなところから・好きなだけ読むのに適している。私は、時折開いて二、三篇ずつ読むことにしている(今日は十篇ほど読んだ。以前読んだ気のするものもあるが、なに構いはしない)。
メルシエが序文に「私は忠実に描写しなければならなかったのだ」(上巻,p.21)と書いているとおり、ここには十八世紀(革命前)のありのままのパリの姿があり、幻滅を感じることしばしばである。例えば、「腐った空気」(上巻,pp.126-33)。教会には死骸が山と積まれ、解剖用の遺骸は便所の穴に投げ捨てられ、汲取り人は糞便を市外まで運ぶのを億劫に思って下水や溝に流す(これは1771年の法令によって禁止されていたという)。その「恐るべき沈殿物」は道路沿いにセーヌ河へと向かってゆっくり流れて行き、岸辺を汚染する……。この衛生観念のなさには驚かざるをえない。
物騒な話題が多く、いずれの小品にも多かれ少なかれ毒があるが、どれもこれも面白い。「イノサン墓地納骨堂の代書屋」(上巻,pp.265-67)とか「古本屋」(下巻,pp.150-54)とかいった記事まである。また、原著には挿絵が無いのだが、編訳者の判断によって、関連しそうな挿絵や図版を沢山載せてくれているのも有難い。