やはり、クーパーの『ボー・ジェスト』

田型切手

ここに、一枚あたり25セントの、田型(でんがた)切手がある。何年か前に、アメリカで発行されたものである。「田型切手」というのは、「田」の字型に四枚が組み合わされた切手のことだ。デザインは、アメリカのクラシカル映画。左上から時計回りに、『オズの魔法使い』『風と共に去りぬ』『駅馬車』『ボー・ジェスト』。
このうち、『オズの魔法使い』『風と共に去りぬ』はずいぶん前に一回だけ観たことがあり、『駅馬車』は大学生になってから観た。『駅馬車』はすっかり気に入ってしまい、四回鑑賞した*1。しかし、『ボー・ジェスト』のみ観たことがなかった。何年か前、地上波で放映されたが、それは1966年の『ボー・ジェスト』で、ゲイリー・クーパー主演のものではなかった。切手に描かれているのは、最も有名なゲイリー・クーパー主演の作品である。
ボー・ジェスト』は、これまでに三度も映画化されている。まずはブレノンの『ボー・ジェスト』(1926)、それからウェルマンの『ボー・ジェスト』(1939)、そしてヘイズの『ボー・ジェスト』(1966)。この三本である。亜流のものも含めると、その数はもっと増えるらしい。
ゲイリー・クーパーが「ボー・ジェスト」を演じたのは、1939年のウェルマン版である。たまたま、それが衛星劇場で放映されていたので観てみた。するとこれが、予想以上におもしろかった。
クーパー(ボー・ジェスト)、レイ・ミランド(ジョン・ジェスト)、ロバート・プレストン(ディグビー・ジェスト)の三人の兄弟愛がテーマとなっており、彼らが「アフリカ外人部隊」で活躍するさまが描かれている。強欲かつ卑劣なブライアン・ドンレヴィ(マルコフ軍曹)を中心とした独裁体制の軍隊とその厳しすぎる軍律、迫り来るアラブの兵など、「敵」は内部にも外部にもいる。兄弟たちがそれにどう立ち向かっていくか、というのが見ものである。戦場における緊張感のみならず、非常時にも「束の間の休息」というものがやはりあって、そういうディテールがなかなか丹念に描かれている。ラストの意外な展開にも注目。「戦争映画」とか「西部劇」とかを生理的に嫌う人もあろうが、どうか虚心に観ていただきたい。
ショパン:ピアノ協奏曲第1&2番
ところで話は変るが、先ごろ「高松宮殿下記念世界文化賞」を受賞したマルタ・アルゲリッチ(アルゼンチン)の演奏を、久しぶりに聴いてみたくなった。
そこで、ショパンのピアノ協奏曲を聴くことにした。DGレーベル。第一番と第二番のカップリングで、第一番はクラウディオ・アッバード&ロンドン響、第二番はムスティスラフ・ロストロポーヴィチ&ワシントン・ナショナル響。
わりと有名な第二番のノクターン風ラルゲット(第二楽章)は、最近のテレビドラマか何かで使われていた*2。ただし冒頭の部分のみ。ショパンが思いを寄せていたコンスタンチア・グラドコフスカに捧げられた曲で、たいへん美しい楽章である。そのロマンティックな楽章を、アルゲリッチは美しく力強く演奏する。特に展開部が素晴らしい。
かなり前に読んだ本―たしか現代小説であったと思うが、失恋をテーマにしたものがあった。主人公(男)の失恋後、頭のなかに「ショパンのピアノ協奏曲が鳴り響いていた」とかいう一節があったのだが、それが思い出せないのが悔やまれる。彼の頭のなかで鳴り響いたのは、二番の第二楽章であったか、それとも一番の第一楽章(アレグロ・マエストーソ)であったか。

*1:淀川長治氏は六十数回観た、と語っていた。畏るべし。

*2:後で分った。『貞操問答』だった。