浮かれ三度笠

森銑三『史伝閑歩』(中公文庫)読む。まだ全部を読んではいないけれど、やっぱり面白い。特に、『想古録』――これは後に平凡社東洋文庫に入った。電子書籍の形態でも読むことが出来ます――をめぐる前半部のお話が面白い。東洋文庫を読むまえに、こちらを読んで良かった。
向井敏の解説「ゴシップで綴る人物随筆」も必読だ。ゴシップで思い出したのだが、今月の新潮新書に、野口武彦『大江戸曲者列伝 太平の巻』が入っています。来月は「幕末の巻」が出るらしい。こういうの大好き(だから、薄田泣菫の『茶話』も好きなのです)。
浮かれ三度笠 [VHS]
田中徳三『浮かれ三度笠』(1959,大映)鑑賞。三本目の「濡れ髪」である。途中で展開が読めるのだけれど、なかなか面白く観た。第二作の『濡れ髪三度笠』に続いて、再び市川雷蔵本郷功次郎コンビが活躍する。二作めのゲストは「和田弘とマヒナスターズ」だったけれど、今回のゲストは「かしまし娘」。雷蔵と直接絡むことはないが、後に『てんやわんや次郎長道中』(1963)で雷蔵と共演した関西の藝人、すなわち夢路いとし・喜味こいしミヤコ蝶々白木みのるなどと同じくらいの、あるいはそれ以上のインパクトがある。
いわゆる「『現代』時代劇」だから、「バックシャン」*1という俗語や、「担当は与三郎でした」(教養番組のパロディか?)などという表現が出てきて面白い。
西脇英夫氏は、「『浮かれ三度笠』は、(以下、ネタばれ要注意)やはり若殿が旅鴉に身を替え、家出した許嫁の姫(中村玉緒)と結ばれるまでを、お家騒動をからませて描いたもので、この種のマンネリ化はどうしようもない」(『日本のアクション映画』現代教養文庫,p.241)と書いているのだが、しかし割と面白かった。ラストがやや教条主義的になるところや、結末部の長尺がすこし気に食わないけれど、例えば、徳川宗春の連判状をめぐって争奪戦が繰り広げられるあたりの演出(二箇所)に目を向けて欲しいと思う。独特なカット割で連判状に踊らされる人を描きつつ、軽妙な音楽を被せてバカバカしさを強調するのである。
雷蔵の出番は多いけれど、全篇とおしてみると、今回はいわば語り部的(コロス的、といってよいかもしれない)な立場にあることが分る。むしろ主役は中村玉緒であり、本郷功次郎であり、また左幸子なのだ。

*1:後ろ姿だけ美人、という失礼な意の言葉。そういえばわが熊本弁に、「おっぺしゃん」というこれまた失礼な言葉がある。「しゃん」はドイツ語「schön」(学生語「シャン」はこれに由来)か、と考えたこともあるが、果してどうなのだろう。