文字の幸はふ国

笹原宏之『日本の漢字』(岩波新書ISBN:4004309913笹原宏之+横山詔一+エリク・ロング『現代日本異体字〔漢字環境学序説〕』(三省堂)とか『漢字講座』シリーズ(明治書院)とかの内容と重なる記述もあったが、面白く読んだ。書きたいことは沢山あるが、取り敢えず二、三の事柄についてメモ。
小野梓は、立花隆天皇と東大(上)』(文藝春秋)も早大創設の立役者として取り上げているのだけれど、幼名を「テツ一」(「テツ」は「龍」を四字、田型に重ねた形。六十四画)といったこと(p.86)は知らなかった。
現代日本異体字』の p.45 にある「あけび」(「女」の上に「山」を作る。合字)字の調査結果については、笹原氏の論文「『JIS X 0208』における音義未詳字に対する原典による同定」(1996)等を読んでいなかったので、pp.82-85 で初めて知った。また pp.151-53 の内容は、初めて活字化されたのではなかろうか。
「釻(カン)」は「環」の集団文字であって(p.125)、この字は『漢字講座』所収の論文(詳細は失念)にも引かれていたものであるが、実は衝突を起している。菅原義三『国字の字典』(東京堂出版)が「つく」訓の字として採録しており(p.125)、例えば『日本国語大辞典(第二版)』(小学館)も、「つく」の項に、「銑」「柄」の異表記として挙げている。IMEの単漢字辞書も「つく」で登録している。
最も面白かったのは、「個人文字」から誕生した国字「腺」についての話題(pp.177-84)で、これは杉本つとむ『漢字百珍―日本の異体字入門―』(八坂書房)の記述(pp.271-73)を補完する形になっている。

現代日本の異体字―漢字環境学序説 (国立国語研究所プロジェクト選書)

現代日本の異体字―漢字環境学序説 (国立国語研究所プロジェクト選書)

ことば遊びの世界 (新典社選書)

ことば遊びの世界 (新典社選書)

小野恭靖『ことば遊びの世界』(新典社)は第三章を「漢字遊び」に割いており、ここで取り上げられている「鈍字」の類にも、異体字と衝突を起しているものがありそうである。
漢字百珍―日本の異体字入門

漢字百珍―日本の異体字入門

『国字の位相と展開』(三省堂)や『日本人が創った漢字――国字の世界(假)』(講談社)という笹原氏の近刊も楽しみにしておきたい。