鶴田浩二!

大曾根辰夫『殺人鬼』(1949,松竹大船)を観た。脚本は新藤兼人。前半は、二転三転する証言群から再構成されており、そのプロットは黒澤の『羅生門』(芥川龍之介『藪の中』)、あるいはサルトルの『歯車』(残念ながら映像化はされていない)を想起させる。それゆえ当初は(ワイルダー『情婦』のような!)、法廷サスペンス劇を期待してしまうのだが、後半では『野良犬』を髣髴とさせる追跡劇が展開する。この後半部には、戦後まもない頃の新橋〜銀座近辺がロケ地として使われており、行き交う人々や風景を見るだけでも楽しい(但し、風船などの玩具を用いた細かくかつくどい演出法は、評価の分れるところであろう)。
あの徳大寺伸が主演、というのも珍しいが、銀幕デビュー二年目鶴田浩二が準主役(にして「汚れ役」)を張っており、「何でもこなせる」二枚目俳優としての地位をすでに確立していたようである。畏るべき名優だ。
また、宇佐美淳(検事)、山路義人(警部補)、幾野道子(木島梅子)、日守新一(百貨店の守衛)、坪内美子(バーのマダム)、高橋豊子(アパートの管理人)、小林十九二(屋台のオヤジ)、見明凡太朗(テキ屋)など、脇役陣がやたらと充実しているのも見ものである。裁判長役の井上正夫(新派劇人。亡くなる二年前の出演作品である)は、土地の訛りが抜けていないのだが、なるほどあれは「伊予なまり」でしたか。