松竹版『球形の荒野』

球形の荒野 [DVD]
貞永方久球形の荒野』(1975,松竹)を観た。あの長い小説を、百分ていどに巧く纏めている。とはいえ、芦原節子などといった主要人物は出て来ないし、展開にもかなりの改変がある。山形勲がいい。乙羽信子がいい。そう云えば、『天国の駅』のラストで吉永小百合がうたう「汽車ポッポ」は可笑しくてしようがなかったのだが、この『球形の荒野』のラスト、芦田伸介島田陽子(楊子)がうたう「七つの子」が感傷主義に傾かないのは何故であろう。演出上のあざとさを自覚していたとしてもだ(芦田の演技が巧いことにもよるのだろうけれど)。この最後のシーンは小説(細谷正充氏は、松本清張の長篇ではこれが最も好きな作品だと書いていた)と同じ展開になっているのだが、久美子(島田陽子)の心中をはかりかねる感じがあって、それが却って余韻となるのである。
鈴木直『輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか?』(ちくま新書)を読みはじめる。すばらしい翻訳技術をもっている人(例えば向坂逸郎…)が、なぜわかりにくい確信犯的(本来の意味での)な逐語訳を固執したのか、という話からはじまる。後のほうには春台とか梅岩とかも出て来るみたいだ。
最近面白く読んだ新刊書。筑紫磐井『標語誕生! 大衆を動かす力』(角川学芸ブックス)。最初のほうは少々タイクツだが(「一銭を笑ふ者は一銭に泣く」の出処を明らめる「はしがき」はまあ面白いが)、第三章あたりから段々面白くなって来る。橋元淳一郎『時間はどこで生まれるのか』(集英社新書)。ハッシー君にはずいぶんお世話になった(物理の点数を二十点ほど上げてくれた)。新書という制約上やむを得ないのかもしれないが、エントロピーの増大と「意思」の発生を結びつける後半部にはやや粗雑で乱暴な印象をうける。それでも全体的には面白い。ミンコフスキー空間だのシュレーディンガー方程式だの、「わかった気にさせてくれる」ところが有難い。
瀬川昌治『乾杯! ごきげん映画人生』(清流出版)も面白そうだ(というか、中川信夫鶴田浩二について書かれたくだりをちょっと立読みしてみたところ、じつに面白かった)。