東京日記抄(その2)

その1のつづき。
9.20(木)神保町一日目
土地鑑がないため、開店前にブックダイバーへ辿り着いてしまい、周辺をうろうろする。
神田書房で、日本ペンクラブ都筑道夫選『名探偵が八人』(集英社文庫)、栃折久美子『装丁ノート 製本工房から』(集英社文庫)二冊で100円を購い、またブンケン・ロック・サイドで、トール・ヘイエルダール『アク・アク 孤島イースター島の秘密(上)』(現代教養文庫)―呉智英が「追憶の一冊」(?)で挙げていた本―、日影丈吉『孤独の罠』(講談社文庫)各105円を購う。なかなかの拾い物。
ようやく、「ふるぽん秘境めぐり」が開催されているブックダイバーへ。濱本高明『紙魚から見た人々 四十人の群像』(演劇出版社出版事業部)200円、戸板康二『家元の女弟子』(文春文庫)200円、須田慎太郎『スキャンダラス報道の時代―80年代』(翔泳社、三冊1000円のうちの一冊)、『古典新訳の発見』(光文社古典新訳文庫)100円ほか。
(※後日記す―「この日うれしい誤算あり」)。

9.21(金)千葉行き
H叔父さん、K叔母さんに会うため千葉へ。車中『装丁ノート 製本工房から』。
途中で、M夫婦にも会う。Kのヴィデオを見せていただく(Mさん撮影)。(※昼食を御馳走になる)
成田山分館の近代文学館、開館を記念してか色々な自筆原稿を出しているようだが、遠すぎて行けず(叔母さんに、ここからだと一時間すこし、と云われ断念)。芥川の「歯車」、太宰の「人間失格」、一葉の「たけくらべ」、介山「大菩薩峠」の原稿などが公開されているもよう。一寸残念。目黒の本館では、僕が関西に帰ってから長谷川時雨の特別展が始まるらしい(これも残念)。
夕刻まで千葉。帰途、ブックオフK店に寄り、J.カラー 川本茂雄訳『ソシュール』(岩波同時代ライブラリー)450円、外山滋比古『ことばの力』(中公文庫)、山崎浩一『退屈なパラダイス』(ちくま文庫)各105円を購う。
書きもの遅々として進まず。

9.22(土)神保町二日目
とある事情から、ふたたびブックダイバーへ。今回は時間を持て余さず。が、一応ブンケン・ロック・サイドに寄り、また神田書房にも寄る。一昨日、この二軒の“撒き餌”にスッカリやられてしまったため。ブンケン・ロック・サイドで『略画辞典』(これは後ほど、退屈男さんに差し上げた)。神田書房で、古山高麗雄『小さな市街図』(講談社文庫)と吉野秀雄『やわらかな心』(講談社文庫)と。二冊で100円。
ブックダイバーで、征木高司『狂書目録』(筑摩書房)500円。『本の街』もらう。会計時、Hさんが、コレは退屈君から、と云って本を二冊手渡して下さる。『三代の辞書 国語辞書百年小史』(三省堂)ほか。ありがたや。欲しかった本で、こういうツボを心得ているところが、さすがは退屈男さん、である(さすがと云っては失礼に当たろうか)。
ブックダイバーのHさんの案内により、退屈男さんと会えることに。昼休みを待って、電話をかける。某ビルの下にて待つ。ひとりの爽やかな青年がおりて来て、かれが退屈男さんだとわかる。とりあえず午飯をご一緒し、色々お話しする。
その後、小宮山書店のガレッジセール、いわゆる「コミガレ」につれて行っていただく(※六月にここへ来たときは夕方も遅い時間帯で、ちょうど店が閉められているところだった)。
僕がまだ半分も本を眺めていないうちに(壁面にも本があるよと教えられる体たらく)、退屈男さんはすでに二冊の本を抜いていて、特にもう欲しいのがないから、もう一冊はhigonosukeさんが選んでいいよ、とのこと(※一冊でも二冊でも三冊でも500円のコーナー)。神業を見るおもいがする。なんとか、辰野隆『隨筆選集』(要書房)をえらぶ。300円お渡ししようとするが、そんなにいらない、じゃあ100円だけ貰っておこう、と云うので、結局100円で辰野本を入手。この本、「書狼書豚」「愛書癖」も収めている。「書狼書豚」は講談社文芸文庫版でしか読んでないから嬉しい。またそれとは別に、宮城音彌編『言葉の心理』(河出新書)100円も購う。なんとこの本、鶴見俊輔の「言葉のお守り的使用法について」が入っているのだ。
職場に戻ってゆく退屈男さんを見送りながら、昼休みが終わるまで付き合わせてしまい、申しわけないと思う。
さらにその後、三省堂書店にて、円満字二郎『昭和を騒がせた漢字たち 当用漢字の事件簿』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー)を購入。これはノーチェックだった。そういえば、『読みにくい名前はなぜ増えたか』も出ていたのだ。すっかり忘れていた。
もう、しばらく神保町には来られないだろう、と思うと急に余波惜しくなり、「コミガレ」にまた戻って、さきほど慌てて流した本棚をじっくり見直す。東京新聞文化部編『藝談』(東和社)函、杉山平助『文藝五十年史』(鱒書房)、槌田満文『明治大正風俗語典』(角川選書)三冊で500円を購入。特に『藝談』の入手は嬉しい。「徳川夢声」の項あり。戸板康二執筆の項あり。
田村書店店頭に、さっき見かけた本がまだ売れ残っていたので購入。パアル・バック 深澤正策譯『戰へる使徒』(第一書房)100円。
また金子書店店頭にて、藤谷俊雄『「おかげまいり」と「ええじゃないか」』(岩波新書)、西尾実『日本人のことば』(岩波新書)、泉井久之助『ヨーロッパの言語』(岩波新書)。各100円。
夕方、散歩時に退屈男さんから連絡有り。お取り計らいにより、明日、色々な人に会えることとあいなる。愉しみ。

9.23(日)上野に池袋、かくも長き一日
朝、取り乱すことあり。
午すぎ上野さんぽ。山下清展をみて、少し落ち着く。名古屋での展覧会をみたときよりも相当な充実ぶり。地の利か。そういえば父が、山下清のサインを持っているというのでエッ、というと、いや正確には「持っていた」ので、現在はドコにあるか分からん、とのこと。なんだ。
上野古書のまち」にて、斎藤精輔『辞書生活五十年史』(図書出版社ビブリオフィル叢書)630円、石黒修『ことばと生活』(三友社)300円、それから思い切って徳川夢聲『親馬鹿十年』(創元社)1500円を買う。同書は、「ガンさん記」(丸山定夫のこと)、「獅子文六行状記」、「幽靈大歡迎」(これはハマダ研吾さんの本で知って以来、読みたかった)など収む。
夕方、退屈男さんと、池袋でお会いする。
待ち合わせ時刻の十五分前、「西武内の池袋リブロ」に着いた…積もりだったのだが、何と待ち合わせ場所を間違えていた(「パルコ内の池袋リブロ」に来ていた)ことに気づき、十五分の遅刻。ひたすら恐縮。
小雨ふる中、ジュンク堂を案内してもらった(『スクリプタ』貰う)。さらに、古書往来座も案内していただく(『buku』最新号貰う)。“遊び”感ある本棚面白し。往来座で、獅子文六『べつの鍵』(中央公論社)840円購入。表題作と「二階の女」のみ、読んだことがある。谷内六郎の装釘にかかるこの函入の本をみて初めて、大谷崎の『鍵』の〈むこうをはった〉ことが分かろうというもの。しかも帯附だ。なんとまけてもらい、700円。有難い。
ふたたび池袋リブロに戻る。
東川端さん(id:thigasikawabata)来る。橋本さん(id:hbd)来る。向井さん(id:sedoro)来る。向井さんとお会いするのは約三箇月ぶり。お忙しいところ顔を出していただき恐縮。他の方々と会うのははじめて。
和民にはいる。ひたすら緊張、面白いお話のかずかずを拝聴。HNのゆらいもお聞きする。僕はなぜ、こんな田舎臭いハンドルにしてしまったのか、とまたも後悔。(中略)
午前一時まえに帰る。“ぽん引き”にマンションの下まで追いかけられる。走って逃げる。
さきほどの会話を逐一おもい出し、昂揚感からなかなか寝つかれず。

9.25(火)帰阪
朝、妹と別れる。
妹が、小島よしおの「チントンシャンテントンチントンシャンテントン」を、「(なに)シンとしちゃってんの、シンとしちゃってんの」と聞き違えていたことには笑わされた。
K書店で、山崎忠昭『日活アクション無頼帖』(ワイズ出版)。チョット前、「正式の証明」(id:u-sen)で触れられていたので気になったのだ。中平康、麻雀屋のおやじを副業としていたのではなくて(田山力哉「闇に堕ちた監督」)、カレー屋だったのか(あるいは転職?)。『変奏曲』の評価はやっぱりアレだが、山崎の見方はひとあじ違う。ワイズというのでちょっと心配したが、これは文句なく面白いです。またこんな本をどんどん出して欲しい(※後日、「正式の証明」の評を拝読)。
午まえ、新幹線で帰る。車中、『昭和を騒がせた漢字たち』(※他の本は段ボールに詰めて送ったため)。(中略)「HOUSE OF SHISEIDO」の企画展「スクリーンのなかの銀座」を某ブログで知り、シマッタと思う。