購書日記から

 昨日のエントリにアップする積りでしたが、長くなったので分割します。表記などに不統一が見られますが、そのまま掲載します。

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三月某日
昼すぎから用があるので出たついでにM書房へ。高知新聞編集局取材班『黒い陽炎―県闇融資究明の記録』(リーダーズノート新書)を買う。こんな新書が出ていたとは。背は一見すると、幻冬舎新書かと見紛う。(略)
寐る前、中村登『波の塔』(1960)を観る。有馬稲子がゾッとするほど美しく見える瞬間があってたじろぐ。特にクライマックス、国鉄操作場附近の安宿のシーン。ランちゃん、スーちゃん目当てで動画を見ていたらミキちゃんがびっくりするほど美しく見えたとき(さる方は「わな」発表から解散までだったと書いていたっけ)と同じような驚きだ(などと書いたら、スーちゃんの訃報に接することとなり愕然―後日記す)。

三月某日
出先のRで、新村出『日本晴』(靖文社)200円。また、Jで関口良雄さんを憶う』(夏葉社)を買う。つい先日のネットオークションでは五〜六千円で取り引きされていた。

三月某日
午後からF。(略)Fからの帰りが遅くなるが、Jに寄って、永江朗筑摩書房 それからの四十年 1970-2010』(筑摩選書)を買う。
また某さんから、寛文十二年序『字彙』首巻をお譲りいただく。状態はわるくない。

三月某日
(熊本の)Jで、久松潜一國文學』(東大新書)三島由紀夫椿説弓張月』(中公文庫)E.キエラ 板倉勝正訳『粘土に書かれた歴史』(岩波新書各100円。東大新書は、このほかには中野重治のものしか持っていない(A書房の店頭100均で買った)。
久松著は以前、ある古本市で帯つき800円を見かけたことがあるが、なぜか帯のタイトルが『日本の文學』となっていたのだった。三島の弓張月は探していた中公文庫の一冊。キエラ著には、Gelbの文字系統図の和訳が載っているので「即買い」。元図版は中村完氏の論文が引いているのを見たことがあるが、キエラ著ではなぜか“Medieval developments”が省かれている。これは単なる印刷上の問題か? Gelbといえば、Escarpitの本にも何らかの術語の提唱者として出てきていたがさて何だっけな。
さらに、影山修編著『漢字起原の研究』(テンセン社)函缺1000円、を買う。

三月某日
夜Fから帰ると、魚返善雄編著『大陸の言語と文學』(三省堂750円が届いていた。趙元任の写真が一葉入っている。また、某さんから『最古の富山県方言集』(桂書房を頂く。大したことはしていないのだが、協力者と認めてくださって嬉しいかぎりである。

四月某日
体調不良でまる一日(二日間)寝込んでしまっていたが、だいぶ恢復したので午後散歩。始業前で本当に良かった。
M書房に寄り、「2010年度小谷野賞」を受賞した福田千鶴『江の生涯』(中公新書を買ってきて読む。一冊、棚差しになっていたのを覚えていたのだった。リーダーズノート新書で藤田信勝『敗戦以後』が復刊された(それにしてもまたいい本を復刊してくれるなあ)のもここで知り、立ち読み。

四月某日
午後からUで用事があるので、午前中Tへ寄って、後藤朝太郎『文字の史的研究』(雄山閣500円、太田正雄『葱南雜稿』(東京出版)800円。近藤佶『日本傳説 怪奇茶話』(朝日書房)300円は、表紙がひどい状態だが(中身はそこそこ奇麗)、かなり珍しいものなので、これまた見過ごせずに買ってしまう(裸本でも5000円で出ていたのを見たことがある)。それから、マキノ雅裕『映画渡世・天の巻』(角川文庫)200円も。単行本はセットでよく見かけるが、文庫版のセットは殆ど見ない(有るところには有るんだろうけど)。「地の巻」文庫版は合宿先で某先生に頂いたことがあって、それももう七年も前の話だ。これでやっと二冊揃った。

四月某日
某先生から論文集を頂く。早速御論を拝読、また諸先生方の論考を拝読。「漢数字の書法―文字論のためのおぼえがき」関連の論文も収めてあったのでこちらも拝読。
帰途ブックオフに寄る。講談社文芸文庫が105円棚にいくらか有ったので、『夕べの雲』、『日本文化私観』、『上海』、『随筆 八十八』を拾う。そして井沢実スペイン語入門』(中公文庫)350円も拾う。こないだ新書版がOで850円だったかで出ていた。従妹Sちゃんの御主人(アメリカ人)がスペイン語も操り、またお義母様がスペイン語しか話せない(滅多に会えないのだが)ので、ちょっと勉強してみようか、という気になっている。もっとも、本格的な勉強というのではない。こないだ、たどたどしい調子でいくらか単語をつないで(恐る恐る)喋りかけてみたら、思いの外通じたことに驚き、それを励みに、ときどき勉強してみようか、とおもった次第である。

四月某日
昨日はO病院へ行きFは休み、今日は是が非でもSに行かなければならないので、とりあえず朝まで安静にしていた。早めに出て、道すがら気になったK支店に入り、安岡孝一『新しい常用漢字人名用漢字―漢字制限の歴史』(三省堂を購う。またTで、ユジェエヌ・ダビ 岩田豐雄譯『北ホテル』(白水社獅子文六『牡丹亭新記』(白水社各300円、神代辰巳『シナリオ 四畳半襖の裏張り』(映人社)500円を買う。

四月某日
某先生から論文集を頂く。帰途車中で読む。またKで竹内洋『大学の下流化』(NTT出版を購う(5.8付「読売新聞」に書評が載った―後日記す)。『学問の下流化』と同じような装釘なのだが出版社が違う。竹内先生の本は、『立志・苦学・出世』を読んで以来、見かけるたびに読んでいる。名著『学歴貴族〜』も最近文庫化されたばかり。

四月某日
こないだ病缺のF、久々に出勤すると知らない人がたくさん増えている。Hで、浅羽通明『教養論ノート』(リーダーズノート新書)5%引、を買う。

四月某日
某大からの帰り、ブックオフに寄ると、ソルジェニーツィン 木村浩訳『収容所群島(1)〜(6)』(新潮社)帯つきが200円棚に放りこまれていたので全部買う。五、六年前に復刊されて話題になったが、それも一冊あたり約三千円、旧版でも揃定価だと10,000円を超えることもザラなので、これは確保しないわけにはゆくまい。たまたま今月、再度文庫化された(一部削除されたりしているけど)東浩紀『郵便的不安たちβ』(河出文庫)に東氏の(メジャー)デビュー論考が収録してあって、これがソルジェニーツィンを論じたものなのだ。私はかつて朝日文庫版で読んだが、『収容所群島』にも何度も言及している。
また、「知的生産の技術」研究会『私の書斎活用術』(講談社オレンジバックス)105円も拾う。(いまはなき)オレンジバックスもあまり見かけない。なおこの本の著者(グループ?)は、最近続篇的な本を出版した。

四月某日
このところ、何かの用で出ない日はなく(だからこそ充実していると言うべきか)、この日もやはりFの会合に行かねばならず、朝出る。午前中は少し空いたのでOへ。伊藤雄之助『大根役者 初代文句いうの助』(朝日書院)東宝映画シナリオ選集 山の音』(非売品)各500、タカクラ・テル『新文学入門』(理論社朱線引少有100、石川淳『対談集 夷齋座談(上)(下)』(中公文庫)2冊500円、を買う。タカクラ・テルといえば、片山杜秀氏が冗談なのか真面目なのかよくわからない文脈で言及していたが(『ゴジラと日の丸』所収)、そこで片山氏が言及する「日本語の乱れ」は、いずれも漢字表記に関するものばかり。たとえタカクラ流の「アブダ」を採用したとしても(冗談でも)、それは、表記の「乱れ」(いまこの表現が適当なものかどうかは問わない)を解消するものでしかないだろう。(そういえば、田中克彦氏が『漢字が日本語をほろぼす』という本を出した)

四月某日
ひる過ぎから某大。Tで栃折久美子『装丁ノート』(創和出版)210円、豊崎由美『ニッポンの書評』(光文社新書購う。

四月某日
某大(二回目)へ行く前にシクジリ。電車を乗り間違えるという失態。(略)Sで水谷静夫『曲り角の日本語』(岩波新書古川隆久昭和天皇―「理性の君主」の孤独』(中公新書を買う。またKで小松和彦編著『妖怪学の基礎知識』(角川選書を買う。

四月某日
FのHで西村賢太『廃疾かかえて』『随筆集 一私小説書きの弁』(いずれも新潮文庫5%引を買い、その文庫オビで『根津権現裏』(実は近デジで読めたりする)の復刊を知る(七月刊とか)。

四月某日
午後から所用で京都へ行く前、Mに寄って小林芳規『角筆のみちびく世界』(中公新書450円。Fで日垣隆電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。』(講談社買う。車中読んでいると、新聞社の早期退職者の話など、なんとなく「既読感」があったのだが、一部は「週刊現代」連載中の記事だと知って納得。

五月某日
某大からの帰り、Tでクラフト・エヴィング商會『おかしな本棚』(朝日新聞出版)をついに買う。これまた読書欲がかき立てられる本。後で気づいたが、Hで買うべきだった。また、Hさんから本居宣長『漢字三音考』天明五年刊2000円、が届く。これまた状態が良く、感動。

五月某日
どのみち夕刻から梅田で用があるので、午前中に出て「みやこめっせ」へ行く。こないだK君に戦利品を見せてもらって羨ましく思ったのだった。
本当は三時頃に切り上げて他の古本屋に立寄る予定であったが、結局閉場時刻間際までいた。和本コーナーでいくつか目ぼしいのを拾い(各500円)、Oで新村出編『国語博辞典』(甲鳥書林1000円、魚返善雄支那注音符號の發音』(帝國書院)1000円、日夏耿之介『黄眠文學隨筆』(桃蹊書房)1000円、を購う。

五月某日
今日は昼から所用あり。ついでに散髪、三箇月ぶりくらいだろうか。そうとう髪が伸びていたので、頭が軽くなった。(略)帰りは夜になってしまったが、なんとかKに寄ることが出来たので、O店頭で小酒井不木全集 第一卷』(改造社函少線引210円、木村毅『スパイは躍る』(八紘社)裸本210円、を拾う。M店頭では、里見紝安城家の兄弟 前篇』(春陽堂日本小説文庫)100円を買う。岩波文庫版はよく見るけれど、春陽文庫版はほとんど見かけない。かつて中篇だったか後篇だったかを古書市で見たのだが、その端本でも800円だった。