巳は上に…

◆『サライ』四月三日号の特集、いいですね。森史朗『松本清張への召集令状』(文春新書)も一緒に。清張は来年、いよいよ生誕百年を迎える。

        • -

◆「己」「已」「巳」三字の区別に関する“漢字口唱記憶法”の小異。
「巳(み)は上に、已(すで)に已已(やむのみ)中ほどに、己(おのれ)・己(つちのと)下につくなり」
「己(キ)・己(コ)の声、己(おのれ)・己(つちのと)下につき、已(イ)・已(すで)は中、巳(シ)・巳(み)上につく」
(以上、原田種成編『漢字小百科辞典三省堂1989,p.240)
「き・この声、おのれ・つちのと下につき、い・すでに中に、し・みはみなつく」
(加納喜光『いつも迷ってしまう漢字大疑問 一万人調査「どっちが正しい?」』
講談社SOPHIA BOOKS 2000,p.144*1
「ミ、シ(巳)は上、ヤム、イはスデニ(已)半ばなり、オノレ、ツチノト、コ、キ(己)下に付く」
(小駒勝美『漢字は日本語である』新潮新書2008,p.49)
「巳(み)・巳(し)は上、已(やむ)・已(い)は已(すで)に半ばなり、己(おのれ)・己(つちのと)・己(こ)は下につく」(篠原忠和『篠原名人の平成漢字大学』あすとろ出版1995,p.54)
「巳(み)は上に、己己(おのれつちのと)下につき、半ば開くれば、已(すで)に已(や)む已(のみ)」
阿辻哲次『漢字を楽しむ』講談社現代新書2008,p.84)
「巳(み)は上に、己(おのれ、つちのと)下に付き、已(すでに・やむ・のみ)中ほどにつく」
(斎賀秀夫『漢字の缶づめ 教養編』旺文社1998,p.125)
「己はあき、すで(已)に半ばで巳(み)くっつき」
村石利夫『漢字に必ず強くなる本』三笠書房知的生きかた文庫1988,p.50)
探せばほかに幾らでも見つかるだろうが、とりあえず。

        • -

「それにしても、(人名で―引用者)『○己』と書いて、『○み』と読ませている人は多い。前述のように、常用漢字表には『己』しか無いせいだろう。が、昭和二六年五月二五日内閣告示第一号『人名用漢字別表』(九二字)の中に『巳』は入っており、堂々と使ってよろしい」(山本昌弘『漢字遊び』講談社現代新書1985,p.92)。
「戦前の学校教育では『已』と『巳』と『己』というたがいによく似た漢字のちがいについて、(略)微細な区別を教えられたものだし、(以下略)」(阿辻前掲,p.84)
「この三字(己、已、巳―引用者)は、現代でこそこうして区別されているけれど、明治の文豪が書いた昔の筆跡などを読めば、全部ごちゃごちゃに使われていた。手書きの時代には、そんな厳密な区別などしていなかったのである」(小駒前掲,p.50)。

        • -

藤田敏八『八月はエロスの匂い』(1972)より。簡易宿泊所の壁の落書き。「自己」が「自巳*2」となっている。

*1:大阪府在住、七十五歳(当時)の男性が『読めそうで読めない漢字2000』(講談社+α文庫)―この本、漢字雑学本としては異例の売れ行きだったと記憶している。たしか100万部以上売れたはずで、装いの改められたものが現在も書店に並んでいる(DSソフトにもなった!)―の愛読者カードで紹介した記憶法だという。

*2:已?