最近の入手本から

■古本(ここ三箇月)
・青木英夫『下着の文化史=おしゃれは下着から=』松澤書店、昭和三十二年
新書版、105円。巻末に附録「下着辞典(事典)」。こないだMさんが、古本屋で青木英夫の『下着の文化史』という本を買ったというので、それは雄山閣のものかと訊ねると、よくわからないがピンクの絵柄が可愛くておもわず手が伸びたとの事、じゃあ雄山閣ではなさそうだね、それにしてもこの青木英夫というひとは「下着の文化史」をいったい何冊出しているのだろうね、と話していたのだが、ちょっと調べてみると、Mさんの言っていたのはどうやら『下着の流行史』(平成三年)のことらしい*1。こちらも雄山閣から出ていて、それを増補改訂したのが雄山閣版『下着の文化史』(平成十二年)なのだとか。ややこしい。
松本健一『白旗伝説』講談社学術文庫、1998
松本氏はブレない論客だから、割と好きで時折読む。最初に読んだのは『戦後世代の風景―1964年以後』だったか。「ナショナリズム論の現在的位相」では松本清張もきびしく批判されているが、今読んでもなかなか面白い。沢木耕太郎『テロルの決算』(最近新装版が出たばかり)を読むきっかけを作ってくれたのも同書だったっけ(山口二矢村上浪六の孫と知って驚いたものである)。『白旗伝説』も以前から読みたいとおもっていた著作のひとつである(“白旗伝説”論争*2に肩入れするにせよ、しないにせよ、とにかく読んでおくに如くはないとおもった)。
龜井孝校『元和本 下學集』岩波文庫、昭和十九年
1050円。必要あって買う。初めて行ったK書店にて。それにしてもこの文庫は重版されたことがあるのか知らん。あまり見かけないのだが。<組版に頗る骨が折れたため、校正は特に我儘を通させてもらつて念を入れたけれども、それにもかゝはらず、なお意に滿たぬ節も自然中途に出てこないではなかつた。下學集を引用するに特にこの文庫本を以てしようといふ方は、なにとぞ「元和本」とまでは寧ろ結構であるが、「元和版」として引用せられざらんことを。>(「解題」より)
・『木場ことば集』東京木材市場株式会社、昭和四十四年(非売品)
古本市にて、1000円。「本書は東京深川木場に於て、木材の取引をする業者の間に昔から使われてきた、又現在も使われている特殊な意味を持つ言語を集め、その意味を解説したものです」(「発刊のことば」)。たとえば「地獄値<ちごくね>」、「このことばは、もとは関西の言葉であつたが、木場でもこのごろは使われる。たとえば荷主から販売委託を受けた品物に対して荷主の命どりになるようなひどい安売りをしたようなとき、それを地獄売りと云い、その安値を地獄値と称する」(p.54)。
伊藤銀月『日本警語史』講談社学術文庫、1989
250円。解題は由良君美。「わたしは最後に、この貧しい解題を、ささやかな怒りの言葉をもって閉じよう。それは某文学辞典が、銀月を評して『深味のない……同調者的ジャーナリスト』であったと、ぬけぬけと断じていることである。その恥知らずな執筆者は、銀月の没年すら『不詳』としているのである」(「解題」p.210)。
北小路健『古文書の面白さ』新潮選書、昭和五十九年
T書店、350円。小谷野敦氏があちこちでこの本の面白さを紹介していた(今夏に出た『考える人』*3でも言及)。期待にたがわず頗る面白い。小谷野氏はこの本について、題名が誤解を与えているというようなことを再三云っているが、同じ新潮選書の原田種成『漢文のすすめ』も、タイトルから中身を判断してはいけない著作である。これは決して“漢文法概説”などではなく、やはり自叙伝ふうになっているのである。大漢和編纂秘話も収めてある。両書とも、現在では新刊での入手は残念ながら不可能。
・中村朝貞『文法應用獨修自在 新式漢文速成』寶文館、大正七年
N書店、800円。こちらは漢文法について書かれた本。読んで興味をひかれる箇所があったので購った。
偽りの民主主義  GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史
■新刊では、浜野保樹『偽りの民主主義―GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史』(角川書店)が(今のところ)かなり面白い。参考資料の数量もハンパじゃない。山本明『カストリ雑誌研究』(中公文庫)が、国内の接吻映画第一号は『彼と彼女は行く』(1946.4.18封切)である、と書いていたが、実はそれよりも前に、「GHQの指導を受けずに接吻シーンが唐突に出てくる」『ニコニコ大会 追ひつ追はれつ』(1946.1.24封切)があった*4、ということを初めて知った。それがわかっただけでも十分なのだが。それから『大曾根家の朝』を観たあとに抱いた違和感の正体もわかったような気がする。

*1:後にメールを頂いたのだが、『下着の流行史』ではなく、雄山閣版『下着の文化史』だったとの御返事。ピンクの絵柄が云々というのは、荒俣宏『ファッション画の歴史―肌か衣か―』と混同していたために発言してしまったとのよし。

*2:「(左派からみた)自由主義史観」(というか「歴史修正主義」か。もっとも日本では「歴史修正主義」が右派の呼称に限定されるのが奇妙なことではあるが)vs.「(右派からみた)自虐史観」なる図式の場外乱闘に発展した観があった。

*3:「考える人」といえば、佐藤卓己氏の連載が『輿論と世論』(新潮選書)として出た。タイトルは「ヨロンとよロン」ではなく、「ヨロンとセロン」と読む。「輿論」「世論(セイロン、セロン)」の語誌についてもわりと詳細に書いてある。

*4:ちなみに「ニコニコ大会」というのは正式なタイトルというわけではなく、当時の喜劇映画上映会の総称である。どこかで聞いたことのあるタイトルだとおもったら、川島雄三の監督作品だったのか! って、あれ、川島雄三の本に「接吻場面」について何か書いてあったっけ?