ことばの規範とは

辞書の政治学 ことばの規範とはなにか
安田敏朗『辞書の政治学―ことばの規範とはなにか』(平凡社)。
まあ面白かったが、第四章の論はやや飛躍しているような気もする。
「辞書は読んでこそ面白い」(あるいは批判的に読む)という言説(というほど大袈裟でもないが)は、(芥川龍之介の「猫」はまあ突発的なものであるとしても)『新明解』誕生以前に果して存在したのだろうか。
また『広辞苑』の「一家に一冊」というテーゼ(および権威主義)が、第二版登場時に確実に存在したことは確かである。私の手許にある「第二版」は、「××銀行創立五十周年記念」として行員に配付されたものである。
辞書の「権威主義」を無批判に受け容れるものであれ、辞書の記述を批判するものであれ(意味論的な批判、あるいはイデオロギー批判)、「辞書」=「規範」という前提に基づいているという指摘はよく分った。第四章あたりは、斎藤美奈子文章読本さん江』(筑摩書房)等と読み比べてみると面白いかもしれない。