「タイトル」の話で

思い出したのが、佐々木健一『タイトルの魔力―作品・人名・商品のなまえ学―』(中公新書)。フーコー好きのA先生がぜひに読むべしと仰っていたので、買って読んだ。個人的には、ゴヤゴーギャンの出て来る第六章を面白く読んだが、第一二章に、デュシャンの『泉』とアングルの『泉』を比較したくだりがある。
これについては金川欣二氏が、「同じ『泉』でもアングルのは“La Source”(源)であり、デュシャンのは“Fontaine”(噴水)である。原題はまるで違うのに、佐々木氏自身がタイトルの魔力、つまり、カセット効果に惑わされたのである」(『おいしい日本語【大人のための言語学入門】』出版芸術社,p.27)と批判している。
「カセット効果」という言葉を、福澤諭吉の文章などを引いて説明していたのが、確か柳父章氏であった。その柳父氏に、筑摩書房刊『ゴッドと上帝』*1という著作があって、これは岩波現代文庫に入っている(タイトルも、『「ゴッド」は神か上帝か』と改題された)。私は読んでいないのだけれども、鈴木広光氏が「ゴッドは神でも上帝でもない、今更わざわざ問うまでもない」と批判していたのを聞いたことがあって、訳語を取り扱うさいには注意が必要であるということを思い知らされたものだった。

*1:柳父氏は、“Nature”と「天」という訳語の「ずれ」を扱った文章も書いていた筈である。