『二つの花』

晴れ。
大庭秀雄『二つの花』(1952,松竹大船)を観る。
原作は永井龍男『鳩舎』。『婦人朝日』に昭和二十五(1950)年三月から翌年の二月まで連載された作品だという(『永井龍男田宮虎彦集』集英社日本文学全集附「年表」を参照)。
衛星劇場の「銀幕の美女シリーズ」(淡島千景篇)の一本で、今月はほかに瑞穂春海『お景ちゃんと鞍馬先生』、野村芳太郎『きんぴら先生とお嬢さん』、岩間鶴夫『美貌と罪』が放送された。澁谷實『自由学校』もその一本か、と思っていたのだけれど、こちらは「懐かしシネマアワー」の一本であるようだ。
淡島千景」特集が、〈作家主義〉よりも寧ろ〈プログラムピクチュア〉を重視したラインナップであることは実に嬉しい。例えば『お景ちゃんと鞍馬先生』は、その主題曲と「なにもかも今は愉し」(こちらのほうが印象に残る)が『日本映画主題歌集』という復刻盤に収められていて、容易に聴けるようになったのだが、映像はというと、瑞穂春海監督作品ということもあって、なかなか簡単に観られるようなものではなかったし……。
『二つの花』は、メインタイトルの第一主題が『昼下がりの情事』を思わせるような旋律なのだが、突如、きわめて日本的な、というか和風情緒に溢れたメロディに転じ、これはもしかしたら前者の旋律が淡島千景で、後者の旋律が高峰三枝子を表しているのかもしれない、などと妙な深読みをしてみたり、淡島の横顔のクロースアップが多いので(パチンコ店で高峰に「それは言えない」と云う淡島、車中で物思いに耽っていた淡島が愁眉を開くシーンの何と魅力的なことか)、大庭や長岡博之(撮影)は「淡島千景」という被写体の扱い方を知悉していたのかもしれない、と考えたりした。
一応、高峰三枝子や若原雅夫が主役ということになってはいるが、いやいやこれは明らかに、淡島千景のための映画である(信欣三や『鳩』で主演デビューした石濱朗にも注目したが)。