日本語の起源

 阪倉篤義『日本語の語源』(講談社現代新書)を読む。また、安本美典『新説! 日本人と日本語の起源』(宝島社新書)が出てきたのですこし読む。安本氏には『日本人と日本語の起源』(毎日新聞社?)という著作もあって、これは中身を見ていない。『新説!〜』には、冒頭から上高森遺跡とか秩父原人とかが出て来るので、いま読むと虚しい感じがしないでもない(特に第一章と第七章)。まあ要するに、こんなところにも「発掘捏造」の被害者が居るわけだ。が、それで全部ダメなのかというとそうでもなくて、第五章などは充分面白い(計量言語学の入門書として読めるかもしれない)。トンデモ説を容赦なく批判する第二章も痛快だ。「単なるダジャレにしか見えない」日本語起源説*1を、バッサバッサと斬ってゆく。さすがに、コレア語では万葉集を解読できない、という内容の本を刊行された安田氏である。
 ついでに、ちょっと読み返してみたのが、河合信和『旧石器遺跡捏造』(文春新書)。河合氏の著作『ネアンデルタールと現代人』が『新説!〜』に紹介されていたので、思い出したのだ。
 河合氏は、『旧石器遺跡捏造』のなかで、捏造事件の犯人をモンスター化、というか神化させた責任の一端はマスコミにもある、とやんわり批判している*2。これはまさにその通りで、あの捏造事件をスッパ抜いたのが「毎日新聞」であることは有名だが、『新説!〜』の p.205 に載っている「前期旧石器時代の遺跡分布図」(上高森も小鹿坂も長尾根も出て来る)は、他ならぬ『毎日新聞(夕刊)』の記事(2000.2.21付)を引用したものなのであった(秩父原人の「発見」にちなんだ特集記事らしい)。
 「旧石器発掘ねつ造」がスクープとして報じられたのは、平成十二年十一月五日、安本美典氏の『新説! 日本人と日本語の起源』が刊行されてから約五箇月半後のことである。
(日本語の起源をめぐる話は、ここにも少し書きました。)

*1:このテの語源説は、と学会『トンデモ本の世界』(宝島社文庫洋泉社文庫)等で面白おかしく紹介されている。ところで、日本語の系統論は、しばしば「泥沼」に譬えられる。私自身は、服部四郎『日本語の系統』(岩波文庫)を読んで(七年前の夏)、その困難を思い知らされたものであった。

*2:河合氏は、「考古学」と「人類学」の「知的棲み分け」も批判しているのだが、こういう問題はどの世界にもありそうなことで(というかよくあることで)、悲しい気持ちになってくる。