たまには数学の本も

晴。このところ涼しくなって来た。今日は、大学で、重複図書の運搬作業を手伝った。
週刊新潮』を読む。先週号につづいて、「とっておき 私の京都」は岡崎武志さん。今回は『アスタルテ書房』だ。「福田和也の闘う時評」もいい。「杉山茂丸の『怪著』再び」というもの。この文章を読んでいたら、書肆心水の『百魔』(正続完本)が欲しくなってくるではないか(『浄瑠璃素人講釈』は拾い読みした程度)。
フェルマーの最終定理 (新潮文庫)
サイモン・シン 青木薫訳『フェルマーの最終定理』(新潮文庫)読了。評判どおり、たいへん面白かった。予備知識がなくても読める。
この本は、オイラーガウス、ソフィー・ジェルマン、谷山豊(「ゆたか」ではなくて、「とよ」が本名らしい)、ヒルベルト、ケン・リベットなどの手を経て、最終的にはアンドリュー・ワイルズによって、「フェルマーの最終定理」が証明されるに至るまでを描いたノンフィクションであるが、数学史を概観するための啓蒙書としても読める。数学が「実学」だったピュタゴラスの時代、アレクサンドリア図書館と書物受難の時代、情報戦すなわち暗号解読合戦に数学者が駆り立てられていった第二次世界大戦期……。それぞれの時代における「数学」「数論」の位置づけを明瞭簡潔に描いている。他にも、サム・ロイドの“14−15”パズル、『博士の愛した数式』にも出て来た「友愛数」の話、“ロジャー・ペンローズのタイル張り”など話題が豊富で、息もつかせず一気に読ませる。とにかく、複雑な数式を省いてストーリーを重視したシンの手腕と構成力にいたく感心させられた一冊である。
ところで今月は、足立恒雄『フェルマーの大定理整数論の源流』もちくま学芸文庫の「Math&Science」シリーズに入ったが、そちらは数式が多くて(この本は、「谷山=志村予想」を「谷山予想」としていた。これはまた、「ヴェイユ予想」「谷山=ヴェイユ予想」などと呼ばれることもあり、論者によって区々らしい)、私のような者にはとても理解できそうもない(そんな方にシンの本をおすすめしたい)。同じく今月出た、林晋・八杉満利子訳・解説『ゲーデル 不完全性定理』(岩波文庫)を理解出来なかったが*1その概観だけでも知っておきたい、というむきにもおすすめしておきたい(pp.228-235に不完全性定理の簡単な説明がある)。

*1:しかし理解できなくても、買って損はないかもしれない。何しろこの『ゲーデル 不完全性定理』は、ゲーデルの書いた部分より「解説」(執筆期間なんと十年!)のほうが長いのだ(有難いことに、『ペンローズの〈量子脳〉理論』もそんな感じだった)。しかも、訳者の「まえがき」によると、「ヒルベルト数学基礎論への関わりが不変式論に始まるとい」った、「従来の数学基礎論史への視点の大きな変更を迫る」研究成果をとり入れているのだという。また、「このような、未発表の研究成果や、未完成の研究を文庫の解説に盛り込むことは異例であろう」(p.10)、とある。