研究室で

殺伐とした雰囲気の某紀要を読んだ後、『野口冨士男文庫8』を手に取ってみる。「野口冨士男日記抄『風景』をめぐって」をつい読み耽ってしまう。また、日記抄の全文(というのも妙な表現だが)をついつい読んでしまう。小冊子には、平井一麥氏の「特別寄稿『野口冨士男日記』について」も載っており、昭和八年から平成五年まで続けられた(中断あり)日記について述べてある。戦後、野口は越谷へ疎開したことがあり(約一年半)、「『海軍日記』にならえば、父はこの間の日記を『越ヶ谷日記』としただろう」(p.16)と平井氏は書いている。
この文章は以下のように結ばれている。

この作品(『耳のなかの風の声』のこと―引用者)にかぎらず、父の小説、伝記、評論、随筆、書評は、読み直し、書き直しが十度以上に及ぶものもあり、更に雑誌や単行本として発表された後も、朱筆を入れ、完璧を期した様子を知ることができる。
日記であるだけにさまざまなことが、生々しく書かれているので、個人の名誉や誤解を招かぬようにするため、「野口冨士男文庫運営委員会」を中心に検討し、いずれの日にか昭和前半から平成初年にかけての文壇事情を含めた父の日記が出版されれば、と願っている。(p.17)

ぜひ、出版して頂きたいものである。