杜詩を文庫で読むたのしみ

このモダンな装釘

鈴木虎雄・黒川洋一訳注『杜詩』(岩波文庫

まずはginzburgさんの、《書林雜記@淡路》より。
http://d.hatena.ne.jp/ginzburg/20050220

とうとう来ました、吉岡さん*1…ではなくて、「岩波文庫 春の一括重版」発売日。心待ちにしておりました。
…というのは、今春のラインナップに、鈴木虎雄先生*2、黒川洋一先生*3の『杜詩』がはいっているからです。函入、全八冊。さっそく買ってきました。少々無理をしてでも、これは絶対に買おうとおもっていたのです。
鈴木先生は、かつて叢書「續國譯漢文大成」のひとつとして、『杜少陵詩集』*4を釈されました。この全集から、全体の「約二分の一にあたる五百四十首を『唐宋詩醇』の選にしたがって抜き出し」た(小川環樹*5「第二冊のあとに」より)のが、文庫版『杜詩』全八冊です。
第一冊に「杜甫の伝記」が、第二・第三冊には小川先生による後書が附いていて、鈴木先生との思い出なども語られています。私の気に入っているのは、個人的に好きな詩が集中している第三冊や第六冊なのですが、第一冊から順番に、腰を落着けて味読していこうとおもいます。
ginzburgさんのおっしゃるように、寝る前に一句ずつ…というのも、なかなか素敵です。こうして書いているだけでも、わくわくしてきます。

なお、『杜少陵詩集』は、のちに日本図書から、『杜甫全詩集』として刊行されました(覆刻愛蔵版)。表題がかわっただけで、中身はおなじです。この「愛蔵版」シリーズはほかに、李白をはじめ、蘇東坡、高逭邱、韓退之、白樂天などの全詩集をおさめています。

*1:黒沢清ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)より。ゴダールからの引用が多い映画。私は好きです。

*2:私は、鈴木先生(号は豹軒)の蔵書印附『春秋穀梁傳』十二卷をもっています。F先生の蔵書から「間接的に」いただいたもので、私の宝物のひとつです。

*3:杜甫詩選』(岩波文庫)を編纂された方でもあります。

*4:さすが「詩聖」といわれるだけのことはあって、杜甫の詩に註を附した人はたくさんあります。たとえば、郭知達『九家集注杜詩』(宋)、錢謙益『錢注杜詩』(清)、仇兆鰲『杜詩詳注』(清)、楊倫『杜詩鏡銓』(清)などなど…。『杜少陵詩集』は、仇兆鰲の『杜詩詳注』をもって底本としています。

*5:いつかのべたように、小川先生は湯川秀樹博士の弟です。また、東洋史学の貝塚茂樹博士は小川・湯川両先生の兄に当たります。小川家は学者一家で、三先生の父親は、地質学者の小川琢治博士です。…ちなみに、湯川氏はつぎのように書いておられます。「私の父は非常にいろいろなことに興味を持っておりまして、何か或る一つのことに興味を持ちますと、それに関係した書物をどっさり買ってくる。(中略)それが家にたまってゆくわけですから、私の家はどの部屋も本で一ぱいで、本の中で暮らしていたようなものでした」(湯川秀樹『本の中の世界』岩波新書,1963.p.193-194)。このような環境が、学者一家を育てたのでしょうね。