もしいまだ発見されざる美質がわたしのなかにあるとすれば、もしわたしが不当にも希求しているわけではない真の名声を、小さいながら高尚で寡黙な世界において獲得するようなことがあるとすれば、もしまた、なさずに放置しておくより、どちらかといえば、な…

人間五十今過半(人間五十 今半ばを過ぐ) 愧爲讀書誤一生(愧づらくは讀書の爲めに一生を誤るを) 夏目漱石「無題」詩四首(1895)より。

私にいわせると、辛辣は暗黒と醜悪の力にたいする理性の武器、もっともかがやかしい武器です。辛辣は、あなた、批判の精神であり、批判は進歩と啓蒙の根源です。(ロドヴィゴ・セテムブリーニ) 自己の解放と発展は、時代の秘密でも命令でも決してありません…

美人爲黄土 況乃粉黛假 (美人も黄土と爲る、況や乃ち粉黛の假なるをや) 杜甫「玉華宮」(至徳二載=757)より。

遊ぶものは神である。神のみが、遊ぶことができた。遊は絶対の自由と、ゆたかな創造の世界である。それは神の世界に外ならない。この神の世界にかかわるとき、人もともに遊ぶことができた。神とともにというよりも、神によりてというべきかも知れない。祝祭…

「あんた、よくひとりで走っとったでしょう。やめないで、ずーっと走ってれば良かったとに」(村上) 「なして」(城野) 「べつに…。理由はないけど」(村上) 大屋龍二 石井聰亙*1『高校大パニック』(1978,日活)より。 *1:ただしこれは、石井による23分…

一つの作品が不朽の作として止まるための必要条件は、さまざまな美点や長所を豊かに具備していて、そのすべてを理解し評価する人が容易に見あたらないのではあるけれども、いつも人ごとに作品の一つの美点を認めて敬意をはらうということである。 ショーペン…

あらゆるドラマは破綻をはらんでいる。それはなぜか。ドラマはつねに未知の世界を目ざしているからだ。破綻のない安全なドラマは人間が踊っているだけだ。 新藤兼人『シナリオ人生』*1(2004)より。 *1:岩波新書。「あとがき」の末尾の部分です。このあとが…

私は車から降りた。頭の上には星空が見えた。(中略)星があった。無数の星があった。ばからしかった。叫びだしたいぐらいばからしかった。だが、そのばからしさには敵意があった。早く夜が明け、太陽が昇ってほしかった。 ジョルジュ・バタイユ 伊東守男訳…

私は立志伝の精神を説こうとは思わないが、社会がすでに学歴の有無にそれだけの評価をつけたら、その落差だけの闘志は持ちたいと思う。 松本清張「学歴の克服」*1(1958)より。 *1:松本清張『私のものの見方 考え方―私の人生観』(学陽書房人物文庫,1998)…

してみれば言論の自由とは、大ぜいと同じことを言う自由である。大ぜいが罵るとき、共に罵る自由、罵らないものをうながして罵る自由、うながしてもきかなければ、きかないものを「村八分」にする自由である。 山本夏彦『毒言独語』(1971)より。

「俺がバンドボーイだった頃、今にエルヴィスのようになろう! と思った。俺が1ステージに1曲歌えるようになったころ、チャック・ベリーのようになろうと思った。初めて自分のバンドを持った時、ジョン・レノンのようになろうと思った。ウッド・ストックが…

宗教は偶像を要求する。それは人間の弱点である。的確に物を掴まなければ、大方の人は安心しない。 仏像、聖画、讃美歌、祈祷、ことごとくある意味の偶像なのである。 そうしてほとんど例外なしに、教祖その人は偶像なのである。 教祖に対する信者の情緒は、…

「ちぇっ、古いなあおッ母さん、やんなっちゃうなあ」(北川幸一) 「古くったってね、人間にかわりはないよ。おんなじだよ」(北川しげ) 小津安二郎『早春』(1956,松竹大船)より。

とにかく、わからないことだらけです。わからないことだらけで、結局私も、近々死んでしまいます。それでいいのだ、と思います。 古山高麗雄*1『人生、しょせん運不運』(2004)より。 *1:2002(平成十四)年3月逝去。享年八十一。この『人生、しょせん運不…

「本とはいったい何でしょう! それはもっともらしく書かれた嘘っぱちですよ!」(マカール・ジェーヴシキン) ドストエフスキー 木村浩訳『貧しき人びと』(1846)より。

「アッハッハ。小説がヘタクソだから、犯罪が分るんでさア」(巨勢博士) 坂口安吾『不連続殺人事件』(1947)より。

眞に書を讀むものにとつて、この世界は何と廣大なものであらう。宇宙の寶庫は門を開いて、われわれのはいるに任せ、とるに任せてゐる。この庫にはいつて、あれもこれもと胸躍らせるものに、この世はまたとなく樂しいものである。 河合榮治郎『學生に與ふ』(…

「いやいや、幸福じゃなくったって……、幸福だの不幸だのなんて、一体なんの役に立つんです。どうでもいいじゃありませんか。要するに、ますます純粋に、豊富に存続しつづけるということが問題。そうじゃないですか」(アルピイエ=園長) 安部公房『デンドロ…

「腕をみがく。そして、いくさに出て手柄をたてる。それから、一国一城のあるじになる。しかしな、そう考えているうちに、いつの間にかホレ、このように髪が白くなる。そしてな、そのときはもう、親もなければ身内もない」(勘兵衛) 黒澤明『七人の侍』(19…

「いつまでも昔のことを考えたって仕方がないだろう」(富岡兼吉) 「昔のことが、あなたとあたしには重大なんだわ。それをなくしたら、あなたもあたしもどこにもないじゃないですか」(幸田ゆき子) 成瀬巳喜男『浮雲』(1955,東宝)より。原作:林芙美子*…

「なんてったって僕は、あしたの日本のサブカルチャーを担うエースですからね。僕は醒めてなお酔いつづけるために、ビニール本という愚劣なメディアを使うんですよ。この卑小な時代の滑稽な象徴としてね」(神崎繁) 和泉聖治『沙耶のいる透視図』(1983*1,…

「いいか、いきさつは一切捨てて、正々堂々と戦うのも仁義のうちだ。立会人は降る雪だけだが、力のかぎり戦って、男の死に花を咲かせようじゃないか」(小洗音次郎) 安田公義『博徒一代 血祭り不動』(1969,大映)より。